学生戦争 第1話 開戦! ~争いの火種~
2010/07/22 16:27:40
近代化が進む街とは反し、田舎の雰囲気が漂う街外れ。
そこに建つ中学校に天乃 明斗は通っていた。
ある暑い夏の日、いつものように教室の扉を開けると妙に張り詰めた空気が・・・。
原因は給食に出るハー○ンダッツ!?
幼馴染、火凛の宣言によりダッツ争奪戦が開始された!
果たして明斗は無事にこの戦争を生き延びることができるのだろうか!?
火月夜つむりが文化祭で公開した学園コメディ。
初めに↓
○ほぼ三日で書いた。
○見直しあまりしてない(え
○パロディ多数
○作者の趣味全開
まだまだ未熟でかつ、時間があまりなかったということや主人公視点や学園ものといった初めての試みも多く、指摘する部分は沢山あると思いますが、それでも皆さんに楽しんでもらえれば幸いです。
全4回に分けて公開していく予定です。
どうぞ最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
では。
『小説家になろう』ではコチラ! http://ncode.syosetu.com/n7079m/1/
そこに建つ中学校に天乃 明斗は通っていた。
ある暑い夏の日、いつものように教室の扉を開けると妙に張り詰めた空気が・・・。
原因は給食に出るハー○ンダッツ!?
幼馴染、火凛の宣言によりダッツ争奪戦が開始された!
果たして明斗は無事にこの戦争を生き延びることができるのだろうか!?
火月夜つむりが文化祭で公開した学園コメディ。
初めに↓
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○見直しあまりしてない(え
○パロディ多数
○作者の趣味全開
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PR
1)
『学生戦争』という題名を見て、ファンタジーやSFを想像した人もいるんじゃないかな。
でも、この話は決してそんな要素はない。
勇者が魔王と戦ったり、
魔法使いの学校で生活したり、
美少女シスターが空から降ってきたり、
海賊王を目指して伝説の財宝を求めたり、
そんなことは絶対にしない。
ましてや、魔法や超能力、魔物や妖怪みたいな現実離れしたものは絶対にありえない。
これはただの中学生であるオレ達の、平凡な日常を描いたものである。
--------------
2)
梅雨がようやく明け、夏らしい爽やかな青い空の下、半袖の制服に腕を通した学生たちが賑やかに朝の通学路を歩いている。
オレもその中の一人だ。
オレは天乃 明斗 。
多分普通の中学二年生だ。
普通、普通と言うが、普通というのがどういう基準なのかわからないし、他人がどう思ってるかもわからないから、多分にしておく。
外見も特徴はないし、特技みたいなものも、ずば抜けて凄いというところも、自分ではないと思っている。
とりあえずオレは一人、眠い目を擦りながら重たい足を前に進める。
通学路は、町外れに広がるやたらとデカイ田畑のど真ん中にある、長いまっすぐな一本道だ。
町は近代化が進み、高いビルやオシャレな店が並ぶ中、少し町から離れただけで、やっぱりここがド田舎であることがよくわかる。
オレは新しいとか古いとか、特別気にはならないけど、せっかくだったら・・・、
「ちーっす! 明斗!」
ったく、何だよ・・・。 せっかく、もうそ・・・じゃなくて、考えて事を始めようとしたのに・・・。
それを遮るかのように、やたらとハイテンションな女子が後ろでオレを呼んでいる。
面倒臭いけど、仕方なく後ろを向くと、そこにいたのは幼なじみの、佐東 火凛 だった。
コイツはちょっと変というか、浮いているというか・・・。
まぁ、簡単に言えば、不良だ。
髪は明らかに染めた茶色のポニーテイルで、耳にはピアス。
首に赤いスカーフを巻いている。
左手にはごくごく普通の薄っぺらい学生鞄だけど、右手には工事現場で置かれてそうな鉄パイプが握られていた。
当然、いい想像が浮かぶわけがない・・・。
「何だよ、火凛? 朝からうるさいんだけど?」
「挨拶だよぉ。 最低限の『まなぁー』ってヤツよ。 テンション低いなぁ・・・」
マナーって、不良のお前にそんな概念があるのか・・・?
そんなことを考えつつも、火凛の歩くペースに合わせる。
一見、男女が並んで歩いていると恋愛関係に見えるかもしれない。
・・・が決してオレたちはそんな関係でもなく、そんな感情絶対ない。
いや、持ちたくもないね。
火凛といるのは、ただの幼なじみってだけだ。
コイツと付き合ったら、いたら命がいくつあっても足りねぇ・・・。
早死にするのはゴメンだぜ。
・・・と言いながらも、かれこれ火凛とは幼稚園、小学校、中学一年生と、なぜか全て同じクラスだ。
我ながらよく生き延びていると思うよ、ホント・・・。
そんなことを考えていたら、もう校門の前だ。
汚れた白の三階建て校舎を見上げると、長い歴史を感じる。
中も実際ボロボロで、いい加減に改装工事でもしてくれねぇかな・・・。
オレと火凛は校舎に入り、靴箱で上履きと下履きを入れ替える。
廊下を歩き、階段を上がって二階のオレたちのクラスの2-Bに向かう。
そしてオレは教室の戸を開ける。
「うっ・・・!?」
教室の中から何やらモワッとした、暑苦しいような空気が流れ出した。
別に教室の窓が全部閉まっていて、夏の暑さが篭ってるワケじゃねぇ。
なんか、ピリピリとした張り詰めた空気。
教室に入るとクラスメイトは皆、いつものように友達同士で固まって朝のホームルームの時間を待っていた。
・・・が、いつもと違う点はみんな鋭い眼をしていること・・・。
今日、テストとかあったっけ・・・?
いや、そんなはずはない。
思い返せば、この間に中間テストをやったばかりだ。
小テストもウチの学校が朝からやるわけがない
じゃあ、一体・・・?
オレは思わず後ろに一歩引き下がる。
「な、何なんだ・・・?」
「アレ? 何、明斗知らないの? 今日はすっごく大事な日じゃん」
戸惑うオレの行動に対し、火凛が当たり前かのように言う。
「な、なんだよ? 大事な日って? 連絡にもそんなのあったか?」
オレがそう言うと火凛は、よくぞ聴いてくれました! と、自慢げに腰に拳を当て、それなりの胸を張る。
そして、ビシッ! と勢いよく教室の後ろの掲示板に指した。
「みんな明るくあいさつしましょう?」
「違うっ! その隣!」
青空の背景に黄色の文字だけのシンプルな『あいさつポスター』の隣と言えば・・・?
オレはポスターの隣に貼られたA4サイズのプリントを見つめる。
それは何でもない、白黒印刷の給食の献立表だった。
本当に何でもない献立表だった。
「・・・で?」
「よく見ろっ!!」
火凛は少し興奮気味だけど、何がなんだかオレにはさっぱりわからないぞ・・・。
見ろと言われたんだから、オレは仕方なく掲示板の前まで近づき、今日の献立を確認する。
カレーライス、福神漬、サラダに・・・。
「アイスクリーム・・・?」
貧乏なウチの学校には珍しいデザートだ。
でも普通の学校でもよくある献立だと思う。
しかし火凛はチッチッチ! と右の鉄パイプを左右に振って言った。
「そう、アイスクリーム。 されどアイスクリームなんだよ!」
はぁ・・・? 何、カッコつけてんだよ、コイツ・・・。
呆れた眼で見つめるけど、つっこむのは止めておいた。
コイツにつっこんだらいろいろと面倒臭いことになるだろうしな・・・。
そんなことも知らずに火凛はやたらとテンション高めですげぇぶっ飛んだことを言うんだ。
「何を隠そう! 今日はなんとあのハー○ンダッツなのだよ!!」
「ダッツは冷凍!?」
「は・・・?」
「いや、なんでもない・・・」
いけねぇ・・・、条件反射・・・。
火凛は理解してねぇからセーフセーフっと・・・。
とにかく、ハー○ンダッツ?
ダッツってアレだろ?
一個でも三百円とか、やたらと値段が高い高級思考のアイスクリームのことだよな?
そんな高級品がウチの学校に出るわけがねぇ・・・。
でも、まさか、な・・・?
「ほ、本当なのか?」
オレは珍しく少し裏返った声を出しちまった。
それだけありえないことなんだよ、これは。
オレの問いの答えは後ろから聞こえてきた。
「ほんまの、ほんまやって」
振り向くとそこにいたのは、クラスメイトの神美 千湖 だった。
千湖は関西育ちの女の子で、火凛の染めたのとは違い、自の茶色で丁寧にツインテールに束ねている。
なかなかのスタイルで、中学生にしては結構胸が大きい・・・。
って、オレ何考えてんだよ・・・。
オレはちょっと顔を赤くしたのかもしれない。
千湖はオレの顔を見て、ん? と少し首を傾げたあと、言葉を続ける。
「ウチな、さっきトラックから食べ物が給食室に運ばれるの見てん。 その中にダッツの文字が書かれた箱があったんや!」
やや興奮気味な千湖は、噂話が好きでちょっとした校内の情報屋である。
そんな彼女が言うんだから本当なんだろう・・・。
ん・・・? 待てよ・・・?
「それと、クラスのこの雰囲気。 何が関係あるんだよ?」
そうだ。 いくら給食でダッツが出ると言っても、クラスがここまで真剣になるのはつじつまが合わない。
「バカだなぁ、明斗。 あたしたちのクラスの人数を考えればわかるでしょ?」
「クラスの人数・・・?」
やっぱり焦らした言い方しかしねぇな、コイツは・・・。
オレたちのクラスは二十九人で、他のクラスより一人少ない。
だから、いつも配布物が余ったり、決め事で定員が一人被ったりと、いろいろと面倒臭かったりする。
しかし、それは給食にも適応されるということだ。
牛乳や小袋に入ったジャム、デザートとかも一つ余る。
つまり、ダッツも・・・。
「・・・で?」
「はぁ・・・、あんたってどうしてそんなにつまんないのよ・・・」
ダッツが一つ余るから、という理由だけでクラス全体がおかしくなるわけがない。
「あ~あ・・・、いじり甲斐ないなぁ・・・」
火凛は、面倒臭そうにため息をついて、右手の鉄の棒をクルッと、一回転させた。
面倒でため息つきたいのはこっちだっての・・・。
「いい加減に何考えるか言えよ」
「そうねぇ。 さすがにいじるのも飽きたしねぇ」
「だったらさっさと言えよ・・・」
しょうがないなぁ~ と、けだるそうに火凛は教室の窓際で一番後ろの自分の席に鞄を置く。
そして、よっ、という掛け声と共に机に勢いよく飛び乗った。
「ちょっ、火凛!!!?」
飛び上がった時にスカートがヒラリと舞い上がり、その中が一瞬むきだしになったのだ。
・・・が、スパッツをはいていたので最悪の事態は回避する・・・。
「ん?」
「いや、何にも・・・」
セーフ・・・!!
モロパンだったら確実に鉄パイプの餌食になってたぜ・・・。
肝心の鉄パイプ少女にいたっては、全然気にしてないようだけど・・・。
いくらスパッツを入れてるからって、ちょっとは気にしろよ・・・。
そんな火凛はオレの気持ちもお構いなしに、机の上で足を開き、鉄パイプを前に勢いよく突き出した。
そして、教室中に響くように大声で叫ぶ。
「注目っ!!」
クラス全体が一斉に火凛のほうに振り向く。
「何する気だ・・・?」
「まぁ、見ときって」
火凛の行動に唖然としながら疑問を口にすると、千湖がそう答えた。
千湖は落ち着かず、何か待ちきれない様子だった。
「・・・?」
本当に何が始まるんだ・・・?
机の上の火凛は、すうっ・・・、と息を吸う。
そして――。
「ただ今から、2-Bハー〇ンダッツ争奪戦を開始する!!」
このぶっ飛んだ一言から、オレたちの戦争の一日が始まったのだった――。
--------------
3)
火凛が言いたいことは、クラスで残る一つのアイスクリームをただジャンケンで取り合うのは面白くない。
だから、一番先にそのアイスの器に自分の名前を書き込んだヤツがそれを手にするという、無茶苦茶なルールだった。
そんなルールに乗ったクラスメイトたちは、ホントに馬鹿だと思う。
しかし、オレもそんな馬鹿の一人だったりする。
「ダッツ・・・か」
今は朝のホームルームが終わり、一時間目前の十分間の準備時間だ。
オレはいくつもの教室が並ぶ廊下の窓際で外を見ていた。
広がる田畑を見ていると、ここが田舎だということを改めて実感する。
そんな田舎の学校で、ダッツが出るということは滅多にないことだ。
それを堪能しないわけにはいかないだろう?
確かに普段なら正当にジャンケンを待つさ。
でもクラスの雰囲気を見たらわかるだろ。
『普段の正当なジャンケン』というのが、異色の選択になってやがる。
そう、普通が普通じゃなくなっている。
だから普通ってのが、どういうものかはっきりとわからねぇんだ。
とにかく、今回は不本意だが火凛の話に乗るしかないな。
とは言っても、どうやって手に入れるか・・・。
「はぁ・・・。空間移動 とかできたらなぁ・・・」
「何言ってるの?」
「うわっ!?」
何となくつぶやいた言葉に後ろから返事が返ってくるなんて思ってもなかった・・・。
オレは思わず声を上げてしまった。
「そんなに驚かなくても・・・」
振り向くとそこには小柄な二人の女の子が。
左はショートカットで、右はツインテール。
二人とも共通で黒髪で顔がそっくりだった。
クラスメイトの望月 杏子 と、その妹の喜妁 だ。
二人は双子の姉妹で、小学校からの仲である。
でも、服装も髪型も同じ日は話してみないとどっちかわかんねぇんだよな・・・。
「何、考えてたの・・・?」
少し控えめに言ったのは右手、喜妁のほうだ。
「い、いや、別に・・・」
「そっか・・・」
あ、焦った・・・。
聞かれてはなかったみたいだな・・・。
しかし、ホントにー? と、なんとか動揺を隠そうとするオレに追い撃ちをかけてくるのは姉の杏子だ。
「ホントはダッツのこと考えてたんじゃないのぉ?」
「ま、まぁな・・・、一応だけど。 お前らも出るのか?」
「うん! やっぱり、ダッツなんて滅多に食べれるもんじゃないしね!」
よ、よし・・・、話がそれた・・・。
かつ聞かれてない。 セーフ。
オレが問い返すと、杏子は星のように眼をキラキラと輝かせて答えた。
喜妁のほうは何やらブツブツと小言をつぶやいている。
どうやらダッツ争奪の作戦を練っているようだ。
わかったと思うけど、コイツらは見た目はすげぇそっくりだけど、中身は全然似てない。
だから話してみたらどっちかわかるってわけ。
「で? なんか思い付いた!?」
「思い付いた・・・?」
いきなり似てない双子はグイッと顔を近づけて、攻めてきた。
「いや・・・、何にも・・・。 今から考えようと思ったとこだし・・・」
「なーんだ・・・」
「明斗、つまんない・・・」
何だ、とは何だ・・・。
つまらないのは生まれつきだ。
双子は白い眼でオレを見つめる。
妙にこういうところが似てるから腹立つ・・・。
にしても近い・・・。
何だ? コイツらいい匂いしやがるな・・・。
って、何考えてんだよ・・・。
思わず苦笑いで一歩後ずさるオレ。
とりあえずこの状況を何とかしないとな・・・。
「そ、そういうお前らはなんか考えてたのか?」
よし、無難な切り替えし。
ある程度の回避に―
「ギックゥぅぅッ!!」
「ふえぇぇと・・・」
きゅうしょに あたった!
こうかは ばつぐんだ!!
オレの無難な一言に、二人は小さな悲鳴と共に硬直してしまった。
ここまで効くと思ってなかった・・・・。
恐るべし、無難。
とてつもない威力 の言の葉をぶつけられた杏子は冷や汗を額から大量に流し、喜妁は半泣きになっている。
「何にも考えてなかったのかよ・・・。」
「ち、違うっ!!」
「き、喜妁たちは、何にも思い付かないから、頭が良さそうな明斗から聞き出そうとか、そんなの考えてないもんっ!!」
オレが呆れて言うと、二人は大否定だ。
ただ筒抜けだ、馬鹿。
でも、こういうのがコイツらのいいところなんだろな。
確かにコイツは腹が立つ時もあるけど、思ったことを表情に出せる、純粋なやつらだ。
だから、一緒にいて悪い気はしない。
オレは、ハハハ・・・、と苦笑いしてるとちょっと機嫌の悪い杏子はふと思い出したように言う。
「そういえば、明斗は誰かと手を組まないの?」
「え? いや、別に・・・。 それにアイスは一つだろ?」
そうだ、アイスは一つ。
手にすることができるのは一人だけなのだ。
そんなオレの疑問に喜妁がゆっくりと答える。
「確かにアイスは一つだよ。 でも、二人なら助け合えるよ」
さらに杏子が続けて、
「それにクラス全員でジャンケンするより二人のほうが確率は上がるじゃない? 何なら、二人で分ければいいしね!」
そう、ごもっともな意見を言った。
てか、それなりに考えてんじゃん。
オレは、なるほどなぁ~、と関心して頷く。
でも・・・、
「組む当てなんてないしなぁ・・・」
オレは友達なんてそんなに多いほうじゃないし、チームプレイもあまりしたことがない。
かと言って、特別関わりがほしいわけじゃないしな。
当てなんて・・・。
そう思った時、杏子が一番考えもしなかったことを言いやがった。
「火凛と組めばいいじゃない?」
「断るっ!!」
火凛とだって?
冗談じゃないぜ、あんなヤツ!
この『戦争』の渦の中心に立っているヤツの横だぜ?
たださえ危険極まりない今回に、さらに死亡フラグを立ててどうすんだよ!?
「でも、明斗。 明斗が一番仲のいい人は火凛じゃないの・・・?」
「うっ・・・」
喜妁のごもっともな発言にオレは引き下がる。
確かに周りと関わりが少ないオレだが、火凛とはなんだかんだでずっと一緒にやってきたのだ。
死にそうにはなるが、アイツとは息は合うだろう・・・。
安全を取って、一人でやるか。
危険だが、火凛と組んでダッツに近づくか・・・。
悩んでる時間はあまりない。
早く決めないと・・・。
そう思って廊下の天井に付けられた時計を見上げると、もう授業が始まるまであと三分。
「もうこんな時間か・・・」
オレがつぶやくと杏子は、
「ホントだ。 じゃあ、わたしたちは先に教室に戻ってるね」
そう言って教室にゆっくり歩いて行った。
・・・オレも戻るか。
火凛と話すならまだ時間はあるしな。
そう思った時だ。
「ねぇ、明斗」
喜妁が静かに声をかけてきた。
「どうした、喜妁?」
「あのね・・・」
彼女は恥ずかしそうに上目使いでオレを見つめる。
な、なんだこのシチュエーションは・・・!?
周りの生徒も皆、自身の教室に戻ってほとんどオレたち二人だけの状況だ。
でも、まさか・・・!?
オレの胸が高鳴るなか、喜妁はゆっくりと口を動かす。
そして―
「あなたが空間移動なら、喜妁は座標移動 にしようかな・・・」
「は・・・?」
座標移動・・・?
喜妁が口にした言葉。
それはオレの期待を木っ端みじんに裏切ったものだった。
いや、期待するほうがおかしいけど・・・。
てか、いやいや、待てっ!?
座標移動だって!?
「もしかして・・・!?」
「うん、喜妁、気づいてるよ。 明斗が・・・」
「うわぁぁぁ、待てっ! ここでは言うなっ!」
最悪だ・・・。
もしかしたらと思ったけど、まさかこんなところで・・・。
これは夢か・・・?
そうだ、夢だ。
これは夢であってほしい・・・。
しかし、喜妁は最高に可愛くて、最高に真っ黒な笑みを浮かべやがったんだ・・・。
「明斗の幻想、ぶっ壊してあげようか♪」
「う・・・!?」
そう聞かれたんだよ。
そして気づかれたんだ。
『はぁ・・・。 空間移動とかできたらなぁ・・・』
このつぶやきを。
その意味を。
オレが『隠れオタク』だってコトを――。
--------------
行間1)
まさか喜妁がオレと同類とはな。
普通が普通なのかもよくわからないこの時代。
周りと合わせて生きていく世の中。
ボヤけていて、つまらないことばかり。
そんな中に自分らしくあれる場所はあると思うか?
はっきりと面白いと思うことが欲しいと思わないか?
それはイレギュラーぐらいがいい。
中途半端な普通じゃ満たされない。
だからオレたちは異世界に求めた。
周りに縛られない、幻想の世界に。
『オタク文化』という世界に、な。
だけどイレギュラーってのは、やっぱり周りには認められにくいもんだ。
だから隠していた。
オレも、あの子も。
自分の心の中に―。
--------------
4)
「なるほど・・・。 事情はよくわかったわ」
授業が始まる直前。
教室内では、クラスメイトが準備を済まして席に着くなか、オレは一人立ち、火凛の前にいた。
ダッツ争奪戦で手を組む話をするためだ。
火凛は脚を組んで座り、だるそうに肘をつき、腕で頭を支え、授業なんて知らない~、って顔してやがる・・・。
「で、やるのか? やらないのか?」
「ん~、そうね・・・。 条件付きならいいかな?」
「条件?」
オレが問うと、火凛はやる気があるのか、ないのか、薄っぺらい返事をした。
てか、条件・・・?
また何か考えてやがるな・・・。
しょうがない、ダッツのためだ・・・。
若干呆れ気味だけど、とりあえず火凛の条件を聞いてみる。
「あたしは、あくまでダッツの奪取をするのを協力するだけよ。 あたしはあんたと半分する気はないし、ジャンケンみたいなつまらないこともしたくない」
「じゃあ、最終的にどうやって決着つけるんだよ?」
結構わがままな火凛のそんな提案に、オレが疑問を口にすると、火凛はさっきまでのダル顔から一変。
ニヤリと不気味な笑みを浮かべてこう言った。
「殴り合い♪」
「認めるかぁっ!!」
ジャンケンがしたくないというだけでもかなり無茶苦茶なのに、ましてやわざわざアイス一つのために大事な命を散らしてたまるか・・・。
とにかく、わがまま暴力女を必死に説得し、何とかジャンケンにしてもらった。
さて本題。
問一。
『どうやってダッツを一番で入手するか』
「やっぱり給食室に潜り込むか?」
「んー、そうね。 ワゴンが来てからじゃ遅いしね」
給食を運ぶ際、二クラスに一台ずつ金属の手押しワゴン車に入れられてやって来る。
それが着いてからじゃ、クラス全員で大騒ぎかつ、担任の教師が争奪戦なんて認めるわけがない。
一番乗りで手にするとなると、やはり出所を抑えるのがいい、とオレは思う。
それには火凛も同意だ。
しかし新たな疑問。
問二。
『忍び込むタイミングはどうするか?』
「三、四時間目ぐらいかな・・・」
「三、四時間目?」
火凛は頭を支えていた手を口に当て、考え込むスタイルになって言った。
それにオレが疑問する。
「給食を作ってる時に忍び込んでも見つかるだけでしょ? なら、作り終わってかつワゴンに積み込まれる前ぐらいを狙うしかないじゃない」
コイツ、何も考えてなさそうで実は結構考えてんじゃん。
やはり言い出しっぺだけはあるな。
問三。
『抜け出すタイミングはどうするか?』
「早々と抜け出しても、待たなきゃならないからギリギリでいきましょ。 あと休み時間に抜け出すのはダメね」
「なんで・・・?」
早く抜け出さないのはオレも賛成だ。
待ってる間に見つかったらそこで終わりだしな。
でも、休み時間ぐらいしか抜け出す時間ないんじゃ・・・?
火凛は新たな疑問を生んだ。
イマイチ理解できていないオレを火凛は、フッ、と鼻を鳴らした。
馬鹿にした眼でこっちを見んな・・・。
「やっぱアンタ、馬鹿ねぇ。 それじゃあ授業の始めに気づかれるでしょ? それに人通りの多い休み時間にうろうろしたら逆に見つかるでしょうが」
あぁ、やっぱお前、性悪りぃ・・・。
でも、確かに抜け出すとなると教室内でバレるのは、ほぼ不可能だ。
だからなるべく気づかれるまでに時間を稼ぐ必要がある。
休み時間から消えるとなると、授業の始めで見つかっちまうんだな・・・。
それに休み時間に給食室のあたりをうろうろしてたら怪しまれる。
よく考えたら休み時間の終わりとか、教師が担当のクラスに向かって走ってたりするもんな・・・。
「じゃあ、授業中か・・・」
問四。
『どうやって授業を抜け出すか?』
「三時間目なんだっけぇ?」
火凛、お前明らかに授業受ける気ないな・・・。
「国語だよ。 受ける授業ぐらいわかっとけよ・・・」
「何、優等生ぶってんのよ・・・。 でもラッキー♪ あの先公鈍いし♪」
ぶってねぇし、教師に対してなんて態度だ・・・。
担当はおっとり系で、校内一の催眠術女教師、樫野 紅零 先生だ。
ロングヘアーで、水色とか落ち着いた色の服を好んでいる。
ゆ~っくりした喋り方が殺激的な眠気を襲う、ある意味校長先生より恐い先生かもな・・・。
でも、何処か抜けてるところがある。
それがいいのか、悪いのか・・・。
「まぁ、こっそり抜け出すなら好都合か・・・」
ちょっと不安は残るが、オレは火凛の作戦を呑んだ。
三、四時間目。
たった二時間に、オレたちは全てを賭けてみることにした。
「じゃあ、作戦開始よっ!」
『学生戦争』という題名を見て、ファンタジーやSFを想像した人もいるんじゃないかな。
でも、この話は決してそんな要素はない。
勇者が魔王と戦ったり、
魔法使いの学校で生活したり、
美少女シスターが空から降ってきたり、
海賊王を目指して伝説の財宝を求めたり、
そんなことは絶対にしない。
ましてや、魔法や超能力、魔物や妖怪みたいな現実離れしたものは絶対にありえない。
これはただの中学生であるオレ達の、平凡な日常を描いたものである。
--------------
2)
梅雨がようやく明け、夏らしい爽やかな青い空の下、半袖の制服に腕を通した学生たちが賑やかに朝の通学路を歩いている。
オレもその中の一人だ。
オレは
多分普通の中学二年生だ。
普通、普通と言うが、普通というのがどういう基準なのかわからないし、他人がどう思ってるかもわからないから、多分にしておく。
外見も特徴はないし、特技みたいなものも、ずば抜けて凄いというところも、自分ではないと思っている。
とりあえずオレは一人、眠い目を擦りながら重たい足を前に進める。
通学路は、町外れに広がるやたらとデカイ田畑のど真ん中にある、長いまっすぐな一本道だ。
町は近代化が進み、高いビルやオシャレな店が並ぶ中、少し町から離れただけで、やっぱりここがド田舎であることがよくわかる。
オレは新しいとか古いとか、特別気にはならないけど、せっかくだったら・・・、
「ちーっす! 明斗!」
ったく、何だよ・・・。 せっかく、もうそ・・・じゃなくて、考えて事を始めようとしたのに・・・。
それを遮るかのように、やたらとハイテンションな女子が後ろでオレを呼んでいる。
面倒臭いけど、仕方なく後ろを向くと、そこにいたのは幼なじみの、
コイツはちょっと変というか、浮いているというか・・・。
まぁ、簡単に言えば、不良だ。
髪は明らかに染めた茶色のポニーテイルで、耳にはピアス。
首に赤いスカーフを巻いている。
左手にはごくごく普通の薄っぺらい学生鞄だけど、右手には工事現場で置かれてそうな鉄パイプが握られていた。
当然、いい想像が浮かぶわけがない・・・。
「何だよ、火凛? 朝からうるさいんだけど?」
「挨拶だよぉ。 最低限の『まなぁー』ってヤツよ。 テンション低いなぁ・・・」
マナーって、不良のお前にそんな概念があるのか・・・?
そんなことを考えつつも、火凛の歩くペースに合わせる。
一見、男女が並んで歩いていると恋愛関係に見えるかもしれない。
・・・が決してオレたちはそんな関係でもなく、そんな感情絶対ない。
いや、持ちたくもないね。
火凛といるのは、ただの幼なじみってだけだ。
コイツと付き合ったら、いたら命がいくつあっても足りねぇ・・・。
早死にするのはゴメンだぜ。
・・・と言いながらも、かれこれ火凛とは幼稚園、小学校、中学一年生と、なぜか全て同じクラスだ。
我ながらよく生き延びていると思うよ、ホント・・・。
そんなことを考えていたら、もう校門の前だ。
汚れた白の三階建て校舎を見上げると、長い歴史を感じる。
中も実際ボロボロで、いい加減に改装工事でもしてくれねぇかな・・・。
オレと火凛は校舎に入り、靴箱で上履きと下履きを入れ替える。
廊下を歩き、階段を上がって二階のオレたちのクラスの2-Bに向かう。
そしてオレは教室の戸を開ける。
「うっ・・・!?」
教室の中から何やらモワッとした、暑苦しいような空気が流れ出した。
別に教室の窓が全部閉まっていて、夏の暑さが篭ってるワケじゃねぇ。
なんか、ピリピリとした張り詰めた空気。
教室に入るとクラスメイトは皆、いつものように友達同士で固まって朝のホームルームの時間を待っていた。
・・・が、いつもと違う点はみんな鋭い眼をしていること・・・。
今日、テストとかあったっけ・・・?
いや、そんなはずはない。
思い返せば、この間に中間テストをやったばかりだ。
小テストもウチの学校が朝からやるわけがない
じゃあ、一体・・・?
オレは思わず後ろに一歩引き下がる。
「な、何なんだ・・・?」
「アレ? 何、明斗知らないの? 今日はすっごく大事な日じゃん」
戸惑うオレの行動に対し、火凛が当たり前かのように言う。
「な、なんだよ? 大事な日って? 連絡にもそんなのあったか?」
オレがそう言うと火凛は、よくぞ聴いてくれました! と、自慢げに腰に拳を当て、それなりの胸を張る。
そして、ビシッ! と勢いよく教室の後ろの掲示板に指した。
「みんな明るくあいさつしましょう?」
「違うっ! その隣!」
青空の背景に黄色の文字だけのシンプルな『あいさつポスター』の隣と言えば・・・?
オレはポスターの隣に貼られたA4サイズのプリントを見つめる。
それは何でもない、白黒印刷の給食の献立表だった。
本当に何でもない献立表だった。
「・・・で?」
「よく見ろっ!!」
火凛は少し興奮気味だけど、何がなんだかオレにはさっぱりわからないぞ・・・。
見ろと言われたんだから、オレは仕方なく掲示板の前まで近づき、今日の献立を確認する。
カレーライス、福神漬、サラダに・・・。
「アイスクリーム・・・?」
貧乏なウチの学校には珍しいデザートだ。
でも普通の学校でもよくある献立だと思う。
しかし火凛はチッチッチ! と右の鉄パイプを左右に振って言った。
「そう、アイスクリーム。 されどアイスクリームなんだよ!」
はぁ・・・? 何、カッコつけてんだよ、コイツ・・・。
呆れた眼で見つめるけど、つっこむのは止めておいた。
コイツにつっこんだらいろいろと面倒臭いことになるだろうしな・・・。
そんなことも知らずに火凛はやたらとテンション高めですげぇぶっ飛んだことを言うんだ。
「何を隠そう! 今日はなんとあのハー○ンダッツなのだよ!!」
「ダッツは冷凍!?」
「は・・・?」
「いや、なんでもない・・・」
いけねぇ・・・、条件反射・・・。
火凛は理解してねぇからセーフセーフっと・・・。
とにかく、ハー○ンダッツ?
ダッツってアレだろ?
一個でも三百円とか、やたらと値段が高い高級思考のアイスクリームのことだよな?
そんな高級品がウチの学校に出るわけがねぇ・・・。
でも、まさか、な・・・?
「ほ、本当なのか?」
オレは珍しく少し裏返った声を出しちまった。
それだけありえないことなんだよ、これは。
オレの問いの答えは後ろから聞こえてきた。
「ほんまの、ほんまやって」
振り向くとそこにいたのは、クラスメイトの
千湖は関西育ちの女の子で、火凛の染めたのとは違い、自の茶色で丁寧にツインテールに束ねている。
なかなかのスタイルで、中学生にしては結構胸が大きい・・・。
って、オレ何考えてんだよ・・・。
オレはちょっと顔を赤くしたのかもしれない。
千湖はオレの顔を見て、ん? と少し首を傾げたあと、言葉を続ける。
「ウチな、さっきトラックから食べ物が給食室に運ばれるの見てん。 その中にダッツの文字が書かれた箱があったんや!」
やや興奮気味な千湖は、噂話が好きでちょっとした校内の情報屋である。
そんな彼女が言うんだから本当なんだろう・・・。
ん・・・? 待てよ・・・?
「それと、クラスのこの雰囲気。 何が関係あるんだよ?」
そうだ。 いくら給食でダッツが出ると言っても、クラスがここまで真剣になるのはつじつまが合わない。
「バカだなぁ、明斗。 あたしたちのクラスの人数を考えればわかるでしょ?」
「クラスの人数・・・?」
やっぱり焦らした言い方しかしねぇな、コイツは・・・。
オレたちのクラスは二十九人で、他のクラスより一人少ない。
だから、いつも配布物が余ったり、決め事で定員が一人被ったりと、いろいろと面倒臭かったりする。
しかし、それは給食にも適応されるということだ。
牛乳や小袋に入ったジャム、デザートとかも一つ余る。
つまり、ダッツも・・・。
「・・・で?」
「はぁ・・・、あんたってどうしてそんなにつまんないのよ・・・」
ダッツが一つ余るから、という理由だけでクラス全体がおかしくなるわけがない。
「あ~あ・・・、いじり甲斐ないなぁ・・・」
火凛は、面倒臭そうにため息をついて、右手の鉄の棒をクルッと、一回転させた。
面倒でため息つきたいのはこっちだっての・・・。
「いい加減に何考えるか言えよ」
「そうねぇ。 さすがにいじるのも飽きたしねぇ」
「だったらさっさと言えよ・・・」
しょうがないなぁ~ と、けだるそうに火凛は教室の窓際で一番後ろの自分の席に鞄を置く。
そして、よっ、という掛け声と共に机に勢いよく飛び乗った。
「ちょっ、火凛!!!?」
飛び上がった時にスカートがヒラリと舞い上がり、その中が一瞬むきだしになったのだ。
・・・が、スパッツをはいていたので最悪の事態は回避する・・・。
「ん?」
「いや、何にも・・・」
セーフ・・・!!
モロパンだったら確実に鉄パイプの餌食になってたぜ・・・。
肝心の鉄パイプ少女にいたっては、全然気にしてないようだけど・・・。
いくらスパッツを入れてるからって、ちょっとは気にしろよ・・・。
そんな火凛はオレの気持ちもお構いなしに、机の上で足を開き、鉄パイプを前に勢いよく突き出した。
そして、教室中に響くように大声で叫ぶ。
「注目っ!!」
クラス全体が一斉に火凛のほうに振り向く。
「何する気だ・・・?」
「まぁ、見ときって」
火凛の行動に唖然としながら疑問を口にすると、千湖がそう答えた。
千湖は落ち着かず、何か待ちきれない様子だった。
「・・・?」
本当に何が始まるんだ・・・?
机の上の火凛は、すうっ・・・、と息を吸う。
そして――。
「ただ今から、2-Bハー〇ンダッツ争奪戦を開始する!!」
このぶっ飛んだ一言から、オレたちの戦争の一日が始まったのだった――。
--------------
3)
火凛が言いたいことは、クラスで残る一つのアイスクリームをただジャンケンで取り合うのは面白くない。
だから、一番先にそのアイスの器に自分の名前を書き込んだヤツがそれを手にするという、無茶苦茶なルールだった。
そんなルールに乗ったクラスメイトたちは、ホントに馬鹿だと思う。
しかし、オレもそんな馬鹿の一人だったりする。
「ダッツ・・・か」
今は朝のホームルームが終わり、一時間目前の十分間の準備時間だ。
オレはいくつもの教室が並ぶ廊下の窓際で外を見ていた。
広がる田畑を見ていると、ここが田舎だということを改めて実感する。
そんな田舎の学校で、ダッツが出るということは滅多にないことだ。
それを堪能しないわけにはいかないだろう?
確かに普段なら正当にジャンケンを待つさ。
でもクラスの雰囲気を見たらわかるだろ。
『普段の正当なジャンケン』というのが、異色の選択になってやがる。
そう、普通が普通じゃなくなっている。
だから普通ってのが、どういうものかはっきりとわからねぇんだ。
とにかく、今回は不本意だが火凛の話に乗るしかないな。
とは言っても、どうやって手に入れるか・・・。
「はぁ・・・。
「何言ってるの?」
「うわっ!?」
何となくつぶやいた言葉に後ろから返事が返ってくるなんて思ってもなかった・・・。
オレは思わず声を上げてしまった。
「そんなに驚かなくても・・・」
振り向くとそこには小柄な二人の女の子が。
左はショートカットで、右はツインテール。
二人とも共通で黒髪で顔がそっくりだった。
クラスメイトの
二人は双子の姉妹で、小学校からの仲である。
でも、服装も髪型も同じ日は話してみないとどっちかわかんねぇんだよな・・・。
「何、考えてたの・・・?」
少し控えめに言ったのは右手、喜妁のほうだ。
「い、いや、別に・・・」
「そっか・・・」
あ、焦った・・・。
聞かれてはなかったみたいだな・・・。
しかし、ホントにー? と、なんとか動揺を隠そうとするオレに追い撃ちをかけてくるのは姉の杏子だ。
「ホントはダッツのこと考えてたんじゃないのぉ?」
「ま、まぁな・・・、一応だけど。 お前らも出るのか?」
「うん! やっぱり、ダッツなんて滅多に食べれるもんじゃないしね!」
よ、よし・・・、話がそれた・・・。
かつ聞かれてない。 セーフ。
オレが問い返すと、杏子は星のように眼をキラキラと輝かせて答えた。
喜妁のほうは何やらブツブツと小言をつぶやいている。
どうやらダッツ争奪の作戦を練っているようだ。
わかったと思うけど、コイツらは見た目はすげぇそっくりだけど、中身は全然似てない。
だから話してみたらどっちかわかるってわけ。
「で? なんか思い付いた!?」
「思い付いた・・・?」
いきなり似てない双子はグイッと顔を近づけて、攻めてきた。
「いや・・・、何にも・・・。 今から考えようと思ったとこだし・・・」
「なーんだ・・・」
「明斗、つまんない・・・」
何だ、とは何だ・・・。
つまらないのは生まれつきだ。
双子は白い眼でオレを見つめる。
妙にこういうところが似てるから腹立つ・・・。
にしても近い・・・。
何だ? コイツらいい匂いしやがるな・・・。
って、何考えてんだよ・・・。
思わず苦笑いで一歩後ずさるオレ。
とりあえずこの状況を何とかしないとな・・・。
「そ、そういうお前らはなんか考えてたのか?」
よし、無難な切り替えし。
ある程度の回避に―
「ギックゥぅぅッ!!」
「ふえぇぇと・・・」
きゅうしょに あたった!
こうかは ばつぐんだ!!
オレの無難な一言に、二人は小さな悲鳴と共に硬直してしまった。
ここまで効くと思ってなかった・・・・。
恐るべし、無難。
とてつもない
「何にも考えてなかったのかよ・・・。」
「ち、違うっ!!」
「き、喜妁たちは、何にも思い付かないから、頭が良さそうな明斗から聞き出そうとか、そんなの考えてないもんっ!!」
オレが呆れて言うと、二人は大否定だ。
ただ筒抜けだ、馬鹿。
でも、こういうのがコイツらのいいところなんだろな。
確かにコイツは腹が立つ時もあるけど、思ったことを表情に出せる、純粋なやつらだ。
だから、一緒にいて悪い気はしない。
オレは、ハハハ・・・、と苦笑いしてるとちょっと機嫌の悪い杏子はふと思い出したように言う。
「そういえば、明斗は誰かと手を組まないの?」
「え? いや、別に・・・。 それにアイスは一つだろ?」
そうだ、アイスは一つ。
手にすることができるのは一人だけなのだ。
そんなオレの疑問に喜妁がゆっくりと答える。
「確かにアイスは一つだよ。 でも、二人なら助け合えるよ」
さらに杏子が続けて、
「それにクラス全員でジャンケンするより二人のほうが確率は上がるじゃない? 何なら、二人で分ければいいしね!」
そう、ごもっともな意見を言った。
てか、それなりに考えてんじゃん。
オレは、なるほどなぁ~、と関心して頷く。
でも・・・、
「組む当てなんてないしなぁ・・・」
オレは友達なんてそんなに多いほうじゃないし、チームプレイもあまりしたことがない。
かと言って、特別関わりがほしいわけじゃないしな。
当てなんて・・・。
そう思った時、杏子が一番考えもしなかったことを言いやがった。
「火凛と組めばいいじゃない?」
「断るっ!!」
火凛とだって?
冗談じゃないぜ、あんなヤツ!
この『戦争』の渦の中心に立っているヤツの横だぜ?
たださえ危険極まりない今回に、さらに死亡フラグを立ててどうすんだよ!?
「でも、明斗。 明斗が一番仲のいい人は火凛じゃないの・・・?」
「うっ・・・」
喜妁のごもっともな発言にオレは引き下がる。
確かに周りと関わりが少ないオレだが、火凛とはなんだかんだでずっと一緒にやってきたのだ。
死にそうにはなるが、アイツとは息は合うだろう・・・。
安全を取って、一人でやるか。
危険だが、火凛と組んでダッツに近づくか・・・。
悩んでる時間はあまりない。
早く決めないと・・・。
そう思って廊下の天井に付けられた時計を見上げると、もう授業が始まるまであと三分。
「もうこんな時間か・・・」
オレがつぶやくと杏子は、
「ホントだ。 じゃあ、わたしたちは先に教室に戻ってるね」
そう言って教室にゆっくり歩いて行った。
・・・オレも戻るか。
火凛と話すならまだ時間はあるしな。
そう思った時だ。
「ねぇ、明斗」
喜妁が静かに声をかけてきた。
「どうした、喜妁?」
「あのね・・・」
彼女は恥ずかしそうに上目使いでオレを見つめる。
な、なんだこのシチュエーションは・・・!?
周りの生徒も皆、自身の教室に戻ってほとんどオレたち二人だけの状況だ。
でも、まさか・・・!?
オレの胸が高鳴るなか、喜妁はゆっくりと口を動かす。
そして―
「あなたが空間移動なら、喜妁は
「は・・・?」
座標移動・・・?
喜妁が口にした言葉。
それはオレの期待を木っ端みじんに裏切ったものだった。
いや、期待するほうがおかしいけど・・・。
てか、いやいや、待てっ!?
座標移動だって!?
「もしかして・・・!?」
「うん、喜妁、気づいてるよ。 明斗が・・・」
「うわぁぁぁ、待てっ! ここでは言うなっ!」
最悪だ・・・。
もしかしたらと思ったけど、まさかこんなところで・・・。
これは夢か・・・?
そうだ、夢だ。
これは夢であってほしい・・・。
しかし、喜妁は最高に可愛くて、最高に真っ黒な笑みを浮かべやがったんだ・・・。
「明斗の幻想、ぶっ壊してあげようか♪」
「う・・・!?」
そう聞かれたんだよ。
そして気づかれたんだ。
『はぁ・・・。 空間移動とかできたらなぁ・・・』
このつぶやきを。
その意味を。
オレが『隠れオタク』だってコトを――。
--------------
行間1)
まさか喜妁がオレと同類とはな。
普通が普通なのかもよくわからないこの時代。
周りと合わせて生きていく世の中。
ボヤけていて、つまらないことばかり。
そんな中に自分らしくあれる場所はあると思うか?
はっきりと面白いと思うことが欲しいと思わないか?
それはイレギュラーぐらいがいい。
中途半端な普通じゃ満たされない。
だからオレたちは異世界に求めた。
周りに縛られない、幻想の世界に。
『オタク文化』という世界に、な。
だけどイレギュラーってのは、やっぱり周りには認められにくいもんだ。
だから隠していた。
オレも、あの子も。
自分の心の中に―。
--------------
4)
「なるほど・・・。 事情はよくわかったわ」
授業が始まる直前。
教室内では、クラスメイトが準備を済まして席に着くなか、オレは一人立ち、火凛の前にいた。
ダッツ争奪戦で手を組む話をするためだ。
火凛は脚を組んで座り、だるそうに肘をつき、腕で頭を支え、授業なんて知らない~、って顔してやがる・・・。
「で、やるのか? やらないのか?」
「ん~、そうね・・・。 条件付きならいいかな?」
「条件?」
オレが問うと、火凛はやる気があるのか、ないのか、薄っぺらい返事をした。
てか、条件・・・?
また何か考えてやがるな・・・。
しょうがない、ダッツのためだ・・・。
若干呆れ気味だけど、とりあえず火凛の条件を聞いてみる。
「あたしは、あくまでダッツの奪取をするのを協力するだけよ。 あたしはあんたと半分する気はないし、ジャンケンみたいなつまらないこともしたくない」
「じゃあ、最終的にどうやって決着つけるんだよ?」
結構わがままな火凛のそんな提案に、オレが疑問を口にすると、火凛はさっきまでのダル顔から一変。
ニヤリと不気味な笑みを浮かべてこう言った。
「殴り合い♪」
「認めるかぁっ!!」
ジャンケンがしたくないというだけでもかなり無茶苦茶なのに、ましてやわざわざアイス一つのために大事な命を散らしてたまるか・・・。
とにかく、わがまま暴力女を必死に説得し、何とかジャンケンにしてもらった。
さて本題。
問一。
『どうやってダッツを一番で入手するか』
「やっぱり給食室に潜り込むか?」
「んー、そうね。 ワゴンが来てからじゃ遅いしね」
給食を運ぶ際、二クラスに一台ずつ金属の手押しワゴン車に入れられてやって来る。
それが着いてからじゃ、クラス全員で大騒ぎかつ、担任の教師が争奪戦なんて認めるわけがない。
一番乗りで手にするとなると、やはり出所を抑えるのがいい、とオレは思う。
それには火凛も同意だ。
しかし新たな疑問。
問二。
『忍び込むタイミングはどうするか?』
「三、四時間目ぐらいかな・・・」
「三、四時間目?」
火凛は頭を支えていた手を口に当て、考え込むスタイルになって言った。
それにオレが疑問する。
「給食を作ってる時に忍び込んでも見つかるだけでしょ? なら、作り終わってかつワゴンに積み込まれる前ぐらいを狙うしかないじゃない」
コイツ、何も考えてなさそうで実は結構考えてんじゃん。
やはり言い出しっぺだけはあるな。
問三。
『抜け出すタイミングはどうするか?』
「早々と抜け出しても、待たなきゃならないからギリギリでいきましょ。 あと休み時間に抜け出すのはダメね」
「なんで・・・?」
早く抜け出さないのはオレも賛成だ。
待ってる間に見つかったらそこで終わりだしな。
でも、休み時間ぐらいしか抜け出す時間ないんじゃ・・・?
火凛は新たな疑問を生んだ。
イマイチ理解できていないオレを火凛は、フッ、と鼻を鳴らした。
馬鹿にした眼でこっちを見んな・・・。
「やっぱアンタ、馬鹿ねぇ。 それじゃあ授業の始めに気づかれるでしょ? それに人通りの多い休み時間にうろうろしたら逆に見つかるでしょうが」
あぁ、やっぱお前、性悪りぃ・・・。
でも、確かに抜け出すとなると教室内でバレるのは、ほぼ不可能だ。
だからなるべく気づかれるまでに時間を稼ぐ必要がある。
休み時間から消えるとなると、授業の始めで見つかっちまうんだな・・・。
それに休み時間に給食室のあたりをうろうろしてたら怪しまれる。
よく考えたら休み時間の終わりとか、教師が担当のクラスに向かって走ってたりするもんな・・・。
「じゃあ、授業中か・・・」
問四。
『どうやって授業を抜け出すか?』
「三時間目なんだっけぇ?」
火凛、お前明らかに授業受ける気ないな・・・。
「国語だよ。 受ける授業ぐらいわかっとけよ・・・」
「何、優等生ぶってんのよ・・・。 でもラッキー♪ あの先公鈍いし♪」
ぶってねぇし、教師に対してなんて態度だ・・・。
担当はおっとり系で、校内一の催眠術女教師、
ロングヘアーで、水色とか落ち着いた色の服を好んでいる。
ゆ~っくりした喋り方が殺激的な眠気を襲う、ある意味校長先生より恐い先生かもな・・・。
でも、何処か抜けてるところがある。
それがいいのか、悪いのか・・・。
「まぁ、こっそり抜け出すなら好都合か・・・」
ちょっと不安は残るが、オレは火凛の作戦を呑んだ。
三、四時間目。
たった二時間に、オレたちは全てを賭けてみることにした。
「じゃあ、作戦開始よっ!」
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