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Soul・Link 第一話 プロト版 変更抽出。

大きく変更するところのみ抽出。

「ん・・・? 何か聞こえない・・・?」

 雅がふと、何かに気がついた。

 ソウルとリタも耳を澄ますと、なにやら外から多くの人が、がやがやと騒ぐような声が・・・。

「何でしょうか・・・?」

 リタが不安げに言った。

 それに雅が立ち上がり、今にも飛び出しそうな勢いで、

「もしかしたら、今回の件に関係あるのかもしれないよ!?」

 そう言って玄関に走りだしたので、ソウルはすかさず雅の後ろ髪をつかむ。

 雅は小さく、ふにゃ! と、声を出しで足を止めた。

「何するんだよ!」

 雅は口を膨らまし、腕をバタバタしながら兄に叫んだ。

 ソウルは、ハァ・・・、とため息をついてから、雅の髪を放し、面倒くさそうに言う。

「あのなぁ・・・。 一人でどこ行く気だよ? お前一人で何かできるのか?」

「えと・・・」

「やっぱり、何も考えてなかったのな・・・」

 兄の言葉に図星だった雅は苦笑い。

 それを見たソウルはまた面倒くさそうに、

「わかったよ・・・。 一緒に行ってやるから・・・」

 そう言って椅子から立ち上がり、帽子を深く被る。

 リタも 待ってください! と言いながら、慌てて立った。

 そして、

 「とりあえず、広場に行きましょう。 きっと何かあったんですよ」

 リタはそう言うと、三人は外へと駆けていく。

 商業と宗教の街は不穏な空気が漂っていた―。


7)

 街の広場は教会の正面にある。

 広い広場の中心には、人間が一人乗れるほどの演説用の台が置いてあった。

 その周りには人だかりができていたが、台には誰も乗っていない。

 教会のほうにも、様子がおかしいことに気づいた者が大きな波をつくっていた。

 ソウルと雅、リタの三人は広場の手前で立ちすくんでいた。

「うわっ。 こりゃ、すげぇな・・・」

「これじゃ見えないですね・・・」

 ソウルとリタは、はぁ・・・っと深いため息をつく。

 そんな落ち込む兄の袖を雅がギュッと引っ張った。

「ソウル、肩車」

 それがあったか、とソウルがポンと合いの手を打って、
なんのためらいもなく妹を肩に乗せる。

 そういうところが兄妹らしい とリタは思った。

「よし! 雅、何か見えるか?」

「んー、教会のほうにまで人が集まってるだけだね。 中は扉が閉まっててわからないよ」

 雅がそう言ったのを聴くとと、リタは少し暗い顔をしてつぶやく。

「インデックスさんはどうしたんでしょうか・・・」

「いんでっくす? なんかの目次か何かか?」

 リタのつぶやきに気づいたソウルは、彼女に問いかける。

 それにリタは、ああ・・・、とつぶやいてから、

「ここの教会のトップシスターさんは最年少の女の子なんです。
『禁書目録(インデックス)』と名乗っています」

 と、すらすらソウルの質問に答えた。

 それを聴いたソウルは少しうさん臭そうな顔で感想を述べる。

「禁書の目録(インデックス)ねぇ・・・・。 思いっきり偽名じゃねぇか・・・」

 ソウルがそう言った瞬間だった。


 ドゴォォォォンッ・・・!!


 教会の中から何かが爆発した音し、正面の大きな扉の隙間からモクモクと
黒い煙が溢れ出したのだ。

 黒い煙は広場をみるみる飲み込んでゆく。

「な、何でしょうか・・・!?」

 リタが不安な声で言う。

 周りの人々は悲鳴をあげながら、教会から一斉に離れていく。

 それは人の大波となり、三人を押し流そうとする。

「くっ・・・! なんだってんだよ! とりあえず、雅降りろ!」

 ソウルは雅を下ろし、揺らめく人波に逆らうように走り出した。

 雅をすかさず兄の背中を追う。

「ちょっと二人共、どこ行くんですか!?」

 リタも慌てて走り出した。

 荒れる大波の中は、少しでも気を抜けば押し流されそうになる。

 三人はなんとか掻き分けて、教会のトビラの前までたどり着く。

 すでに煙はもう引いていた。

 見上げるほどの大きな白い扉には、4本足の魔物のような生き物が描かれている。

 多分、これが神様というものだろう。

「ふ、二人共・・・、は、早すぎます・・・」

 リタはその場でしゃがみこみ、ハァハァ・・・、と荒い息を吐く。

 雅は、大丈夫・・・? と、リタを心配しながら言った。

「さっきの爆発と煙は多分、炎を魔術によるものだよ」

「ど、どうしてわかるんです・・・?」

 リタは少し呼吸を整えて問う。

 それにソウルがさらっと、

「雅は、マナの流れを感じれんだよ。 多分、中で何かあったんだろうな・・・」

 そう答えて、さらに扉を見上げて続ける。

「さて、コレをどう開けるもんかね・・・」

 白く光る扉は押してもビクともしなかった。

 中でしっかり鍵がかけられているようで、さらに頑丈なため強行でも無理そうだ。

 普通ならば―。

「二人共、どいてください・・・」

 リタは立ち上がり、扉の前で拳を構えた。

 その表情はさっきまでの穏やかな顔とは違う。

 眼は鋭く、身体からは何やらオーラのようなものが出ているように兄妹は感じた・・・。

「ま、まさか・・・」

 兄妹が慌ててリタの後ろに下がる。

 そして―。

「チェストォォォォ!!」


 ドゴォォォォ!!


 リタは男性のような勇ましい掛け声とともに拳を振り、巨大な扉をバラバラに砕いたのだ。

 フッ・・・! と、リタは拳についた手を息で吹き払い、後ろを向く。

「行きましょう!」

 しかし、兄妹は唖然とし、その場で ははは・・・、と笑うしかなかった。



8) 教会を正面から中に入るとそこは、だだっ広い礼拝堂だ。

 いくつもの木製の長椅子がならんでいて、白い壁と床が、天窓からの光でより白く輝いている。

 礼拝堂の奥の中央には白い神の石像があり、部屋の両端には上へ続く階段がある。

 その石像の前に、黒服の人が二人見えた。
 
 片方は修道女。

 片方はフードを被っていて顔は見えないが、男のようだ。

 両者共に、先に青い水晶がついた木の杖を構えて、修道女は身体から紅い血がにじみ出ていた。

 黒フードの男は不気味に修道女に話しかける。

「貴様、聖地は何処にある・・・?」

「知りません! それよりもトップシスターを何処につれていったのですか!」

 修道女は男の問いに首を横に振り、叫び返した。

 男はそれを聴いて、フッ・・・、と鼻を鳴らし、

「嘘をつかないほうがいいぞ・・・。 あの女がどうなっても知らないぞ・・・?」

 そう言って、杖を修道女に向ける。

 フードの男の足元に赤い魔法陣が描かれ、そこから赤い光が放たれた。

 そして、男は不気味につぶやく。

「黒き炎よ・・・。 クロノフレイム!」

 杖から黒い炎の玉が出現し、修道女を目掛けて飛ぶ。


 ズドォォォン!!


 炎は爆発を起こし、その衝撃で周りのあらゆる物を吹き飛ばした。

 礼拝堂を視界をさえぎるほどのホコリの霧が包む。

 修道女も吹き飛ばされる・・・はずだった。

「何・・・?」

 ホコリの霧が晴れると、そこには一人の赤帽子の少年が修道女の前で二本の剣を構えていた。

 左手に赤い剣。

 右には黒い剣。

「ったく・・・。 いきなり戦闘って、ついてないっての!」

 少年がそう言うと、後ろを向いて修道女に話しかける。
 
「あんた、大丈夫か!?」

「ええ・・・。 貴方は・・・?」

「通りすがりの旅人だよっ!」

 修道女が問い返すと、少年はそう答えた。

 修道女が扉を方を向くと、扉はいつの間にか粉々に砕かれていて、そこからさらに二人の少女が駆けてくる。

 緑の髪の少女は赤帽子の少年の下に。

 ブラウンの髪の少女は修道女のそばに駆け寄る。

 緑の髪の少女は少年に声をかける。

「ソウル!」

「雅! 一気にたたみかけるぞ!」

 少年が緑髪の少女に合図すると、少女は先に竜のような装飾がついた杖を取り出す。

 緑髪の少女は杖を構え、魔術の詠唱をつぶやくと、足元に緑の魔法陣が描かれていく。

「風よ、切り刻め・・・!」

 赤帽子の少年は、緑髪の少女がつぶやき終わると同時に左の剣を振るった。

 そして二人は同時に叫ぶ。

「リンク奥義! 絶風刃!!」

 少年の剣から風の刃が発生し、礼拝堂の白い床を切り裂きながら、ものすごい速さで黒フードの男に襲い掛かる。

 「う、うわぁぁぁぁ!?」

 男はとっさに右に転がり、風の刃をかわした。


 ズドォォォォォ!!


 風の刃は神の石像に直撃し、像は真っ二つに崩れ落ちる。

 「チッ! 外したか!」

 少年は悔しそうに舌打ちし、男を見つめる。

 男はふらふらしながら立ち上がり、階段へと走りだした。

「さ、サバタ様に報告だっ・・・!」

「あっ、待て!」

 慌てて雅も男を追って階段のほうに向かうが、少年がすばやく緑髪の少女の手をつかむ。

「ちょっと、早く追わないと!」

「先にやることあるだろが!」

 少年はあせる少女を抑え、後ろを指差す。

 そこにはブラウンの髪の少女が傷ついた修道女を手当てしていた。

「まずはこの人の安全の確保が先だ!」

 少年はそう言うと修道女の元に走り出す。

 少女も首を縦に振り、少年の後を追った。



9)

 ソウル、雅、リタの三人は、教会の中で一人の修道女に出会った。

 彼女は黒のフードを被った男に襲われ、身体中傷だらけで黒の修道服は紅い血で染まっている。

 三人は修道女を寝かせ、手当てをしているところだ。

 ソウルは修道女の腹部に手を当て、魔術の詠唱を唱える。

「聖なる活力、来なっ! ファーストエイド!」

 修道女はまばゆい光に包まれた。

 すると、彼女の傷口が少しふさがったのだ。

「驚きました。 治癒術が使えるなんて・・・」

 リタが眼を丸くしてソウルに言う。

「まぁな。 簡単なものしかないけどな」

 ソウルは女性の顔色をうかがいながら答えた。

 女性は少しずつだが穏やかな顔になっていくのがわかる。

「あ、ありがとうございます・・・。 助かりました・・・」

 修道女はそう言うとゆっくりと起き上がった。

「痛っ・・・!」

「ああ、ダメだよ! まだ起き上がっちゃ!」

 雅は苦痛で顔を歪む修道女を落ち着かせ、再びゆっくりと床に寝かす。

「この術はあくまでも応急処置の術だからな。 無理すんな」

 ソウルはさらっと処置について説明し、さらに続ける。

「何があったんだ?」

 修道女は、ああ・・・、とつぶやいてからその質問に答えた。

「突然、黒服を着た人たちが侵入してきたんです・・・。 『聖地』がなんとか言ってました・・・。 他の修道士たちは無事に非難したんですけど・・・」

「『聖地』?」

 ソウルは疑問を口にする。

 その疑問をリタが解く。

「聖地とは、このウィティアに八つあると言われる聖なる場所のことです。
そこには万物の根源『マナ』で満たされていると言われています」

 あくまでも伝説ですけど・・・、とリタは付け足す。

 そして今度は、修道女に自らの疑問を尋ねた。
 
「そういえば、トップシスターはどうしたんですか?」

 修道女は少し暗い顔をして答える。

「トップシスターは、その人たちに抵抗したんです・・・。 そしたら、捕らえられてしまって・・・」

「それでアンタは一人で助けに来たんだな?」

 ソウルが修道女の言葉を先読みして言うと、彼女は申し訳なさそうに、はい・・・、と言った。

 修道女もリタも、トップシスターのことを心配している。

 たとえ、危険とわかっていても。

 たとえ、自らが傷つく結果になっても。

 それほどこの教会の、いやこの街にとって大切な存在なのだ。

 その少女は。

 ソウルは少し微笑み、そして修道女に言った。

「オレたちに任せろ。 トップシスターは必ず助ける。 絶対にな」
 
 だろ、雅? と、ソウルは後ろにいる雅に言い、雅はうなずく。

「ありがとう・・・」

 修道女は安心したようだ。

 そのまま深い眠りについた。

 ずっと緊張し、疲れがたまっていたようだ。

 さてと、とソウルは立ち上がって雅に言う。

「んじゃ、雅。 アイツらぶっ飛ばしにいきますか!」

 うん! と、明るく返事をして雅も立ち上がる。

「さっきの男が言うに、サバタって人がボスみたいだね」

 雅はさっき、修道女を襲っていた男の言葉を思い出す。

(サバタ・・・!? まさか・・・!?)

 リタは雅の言ったその名前にとても敏感に反応した。

「私も行きます! 二人だけじゃ危険です!」

 リタは慌てて立ち上がり、眼を丸くして言い、兄妹についていこうとする。

 しかし―。

「ダメだよっ!」

 雅がそれを止めようとした。

 雅は力強い眼差しでリタを見つめる。
 その眼はいつものかわいらしいものと違う。

 そのまっすぐな眼はリタの足を止めた。

 雅は力強く言う。

「今、誰かがこの人を安全な場所に連れて行かなきゃ、この人は死んじゃう。
この街に住んでるリタなら治療できる場所とかそういう場所、知ってるよね?!」

 でも・・・と、リタは後ずさる。

「大丈夫だ」

 ソウルが雅に続けて戸惑うリタに言った。

「大丈夫だ。 オレたち、こういうのは慣れてっから。 リタ、その人を頼むぜ?」

 ソウルは少し微笑んだ。
 彼の眼もまた、まっすぐな力強い眼をしていた。

 それを見たリタは、どこか懐かしい顔を思いだす。

 今はどこにいるかわからない、一人の少年を。

「・・・わかりました。 私、助けます! この人を。 二人も気をつけて」

 リタの眼差しも強くなった。

 それを見た兄妹は、深くうなずいた。

 兄妹とリボンの少女は背中を向け合い、走り出す。

 それぞれの目的に-。




補正点書き終わり。 以下の文も随時補正。 2010/04/06

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Soul・Link 第一話 プロト版

補正中。

Soul・Link 第1話 商業と宗教の街 セルリア

1)


 ざわざわっ・・・。


 穏やかな風が吹き、
周りの背の高い木々が、
深い緑の葉を擦りあわせ、
どこか落ち着く優しい音色を奏でている。



 ここはセルリアの森。

 レフティア大陸・中央部にある
「商業と宗教の街 セルリア」の
周辺に広がる大きな森林地帯だ。

 草木が生い茂るこの場所だが、
森の中心に広大な自然を南北に分ける一本の道がある。

 この道が、商業と宗教の街へと続くのだ。



 しかし、
ここ最近の魔物の凶暴化により人通りは少なくなり、森は静けさに包まれていた。



 薄暗いこの森をとある兄妹は歩いていた。


「ねぇソウル~・・・、
お腹空いたんだけど~・・・」

「なんだよ、雅(みやび)。 さっき昼飯、食ったとこだろが・・・。」

 後ろで前屈みになり、手をだらりとしている妹の暴食発言を、
兄はため息をつきながら受け流す。


 兄、ソウ・エンフォン。
 通称、ソウルは十五歳の少年だ。
 少し長い黒髪を揺らし、
赤いパーカーを着ていて、
左眼は紅く、右眼は深く被った赤帽子で見えない。

 首にかけたゴーグルと、
腰につけ、二本の剣を納めた四角い箱のようなもの、
「剣納魔導器(スケバード・ブラスティア)」は木漏れ日を浴びて輝いていた。



 妹の雅は少し小柄で、
腰まである優しい緑の髪を大きなリボンでくくっている。

 ぶかぶかの上着を着て、
その上から腰に布を巻き、
時々服の隙間から見える短いスカートがかなりきわどい。

 巻き布には何かの動物の尻尾のようなフワフワした
アクセサリーが付けられていて、愛らしく揺れている。



 二人はセルリアを目指し、北へと進んでいるところだ。


「ねぇねぇソウル。 次の街に着いたさぁ、何か甘いもの買ってほしいなぁ~」

「ダメだっての! お前のせいで食費がヤバイってのに、無一文になるっての!」

 ソウルは雅の方を向いて、現実を叫びぶつける。

 甘えた声でのおねだりも
兄はあっさり一蹴されてしまった雅は、口を膨らまして若干涙目になっている。

 ソウルは、
面倒臭そうな目で雅を見つめてまた、はぁ・・・と一息。


 その時、

ガバッと突然、雅が抱き着いてきたのだ。

「!?」

 ソウルは突然の出来事で少し戸惑う。

 いや、誰でも少女が抱き着いてきたら戸惑うと思う。

 たとえ妹でも。


「み、雅・・・?」

 ソウルが顔を赤くして、問い掛ける。

 あのね・・・ と雅の口が動く。

 そしてー、


「やっぱりマーボーカレーサンドがいい!」

「やっぱ、それかよっ!!」


 超ガッカリ展開。

 涙目な兄。

 長年の間、一緒に暮らしてきた彼らだが、
ソウルの最大の悩みがこの雅の暴食癖と生意気な性格である。

 雅ももう十三になる。
そろそろ成長してほしいが・・・、

「期待したオレがバカでした・・・」

「何、そのセリフは!?」


 ぎゃーぎゃーと騒ぐ兄妹の声が静かな森に響きわたる。

 アップルグミでもいいから!
というボケも、

 それは薬だろがっ!
というツッコミも、

 森の奥の奥、
その奥の闇まで響き、
吸い込まれていった-。



2)


「アップルグミでもいいからさぁ!」

「だからそれはおやつじゃなぇっての!」

 森の真ん中で漫才を繰り広げている兄妹。

 かれこれ30分は続いている。

 赤帽子の兄はいい加減に止めたく、目を細めてウンザリしているところだ。

 (ちなみにアップルグミとは、
リンゴ味のグミ状の回復アイテムで、食べれば体力が回復するという魔物と戦う
旅人の必需品だが、一つ250R(リーヤ)と少々値段が張る。)


 なんとかこの話にケリをつけたいが、
かと言って雅に三食以外で食費を増やされるわけにはいかない。

「どうすれば・・・」

 ソウルはため息ながらつぶやいく。


 その時だった。



 びゅおぉぉぉっ・・・。

 風向きが突然変わった。
重い空気が暗い森の奥から流れ、
木々がざわざわと、不吉な音を奏でる。

「風が・・・脅えてる・・・?」

 雅は空を見上げて、少し不安げに言う。


 そして・・・、


「きゃぁぁぁぁぁ!」

 道の先から少女の悲鳴が聞こえてきたのだ。

「!?」

 ソウルと雅は声のする方に振り向く。


 少し先方に少女が狼型の魔物に襲われていたのだ。
 
 森に漂う空気は嘘をつかない。

 なんとも最悪で、お決まりのパターンだ。


 ちっ・・・  と、ソウルは舌打ちをして雅に

 「行くぞ!」

 と、声をかけて振り向く。



 ・・・が、

「あ、いねぇ!?」

 さっきまで後ろにいた雅はすでに少女のほうに走り出していた。

「ちょっと助けてくる!」

「えっ、ちょっ、雅!?」


 ったく・・・と、ソウルは少しめんどくさそうに顔を下げてつぶやく。

 そして、
腰につけた「刀納魔導器」に納められた二本の剣に手をかけ・・・、

「世話のかかる妹だなっ!」

 そう言って勢いよく剣を引き抜いた。



 森には、風がより強く吹きだした-。



3)


「グルルルルルゥ・・・」

 魔物は飢えていた。

 ここ何日も獲物にありつけなかったようだ。

 そこに通りかかった一人の人間の少女。

 これは逃すわけにはいかない。


「うぅ・・・」

 少女のほうは突然、目の前に現れた魔物に戸惑っていた。

 ブラウンの髪が乱れ、青いワンピースについた大きなリボンには
爪で切り裂かれたような跡がある。

 足元には少女が持っていた小さなバスケットと
2、3個の太陽のように紅いリンゴが転がっていた。


(・・・なんとかしなきゃ。
・・・なんとかしなきゃ)


 少女はそう心の中でつぶやくが足はピクリとも動かない。


(どうしよう・・・。
どうしよう・・・!)


 魔物が、じりっ・・・じりっ・・・と少しずつ近いてくるたびに
胸の鼓動がドクドクと速くなっていく。


(誰か・・・。
誰か・・・!!)


 魔物がダッ、と走り出した。

 欲に塗れた牙を光らして。
 不吉な足音を鳴らして。

 思わずリボンの少女は目を閉じる。

 そして-


 ドスッ・・・。


 静かな森の空気鈍く重い音が響く。

 しかし-、

「え・・・?」

 少女は目をそっと開けた。
 生きている。

 魔物は少し離れた場所で血を腹部からドクドクと流して横たわっていた。

 さっきの音は少女の肉が引き裂かれた音でない。

 魔物の肉の方だったのだ。



 リボンの少女は震えた声で、

「な・・・、何が起こったんでしょうか・・・?」

 そう言ってへなへなとその場に座り込んでしまった。

 あまりの急展開で、
 まだ胸の鼓動は速い。

 彼女は、はぁ・・・ と一息ついた時後ろから人の声がした。

「大丈夫ですか?」

 リボンの少女は声の方を振り向く。

 そこにいたのは、緑の髪をした小さな女の子と赤帽子の少年だった。



4)


 ソウルと雅はセルリアの森でたまたま人に出会った。

 その人はウルフと呼ばれる狼型の魔物に襲われていて、
 今にも頭から食い殺されようとしていた。

 二人は、「絶風刃(ゼップウジン)」という
風の刃を飛ばす合体技で魔物を蹴散らしたところだ。


「あ、あの、さっきは助けてくれてありがとうございましたっ!」

 リボンの少女は深々と頭を下げる。

「私はリタ。 大地の巫女(みこ)のリタです!」

 リタと名乗る少女は再度、頭を下げてお礼を言う。

 礼儀のある少女だ。

「わたしは雅。 悠久の風の雅だよ! それでこっちがバカ兄の・・・」

「バカは余計だ! ソウ・エンフォンだ。
ま、ソウルって呼んでくれればいいよ」

 雅の明るく振る舞うのに対して、ソウルは無愛想だ。
 こういうのはあまり馴れないらしい。

 ソウルは足元に転がった紅い果物に気づく。

「リタ、コイツらは?」

 そうリタに問い掛けて、一つ拾いあげる。

 それにリタは、ああ・・・ と呟いて、

「私、この先のセルリアで果物屋をやっているんです」

 と答えた。

 彼女はさらに続けて、

「果樹園へこのリンゴを取りに行った帰りに襲われて・・・」

 リタは、これでは売り物になりませんね・・・と言って
困った顔をしてため息をつく。

 ソウルはふ~んとつぶやいて、さらに質問を続けた。

「これ一ついくら?」

「えっ・・・?」

「これ一つ、元々何R(リーヤ)するかって聞いてんの。」

 リタは思ってなかった質問に戸惑う。

 100Rです と、答えると

 ソウルはニッと笑って、

「よし、半額で二つ買った!」

 そう言って財布を取り出して、リタに100R渡す。

「ええ、で、でも!?」

 リタはさらに戸惑う。
思わずお金を落としそうになった。

「別にいいだろ? 売り物にはなんねぇけど、まだ食えるんだから」

 リタのことなどお構いなしにもう一つ、足元のリンゴの拾って雅に投げる。

 雅はパシッと両手でリンゴをキャッチして、そのままガブリとかぶりつく。

「んっ~!! 甘~い!!」

 雅は満面の笑みで、その場に小刻みで足踏みしながらはしゃぐ。

 リタは再び頭を下げて
ありがとうございます!、と言った。

 ソウルのほうはというと、雅との漫才を止めるきっかけとなって、
内心ラッキーだった。

本来の一個の値段で二つ買えたのだから、薄っぺらい財布には大喜びだ。


「二人はどうしてこの森に?
やっぱりセルリアに行くのですか?」

 リタは少し嬉しそうにソウルに問い掛ける。

「まぁな。 オレたち旅をしてるんでね。」

 そうソウルがリンゴを一かじりして答えるとリタは、旅ですかー、
と関心しながら首を縦に少し振る。


 雅はリンゴの実を早くも食べつくし、ポイッと草むらに芯を捨てた。

 その時、ガザガサッと大きく草が揺れた。

「!?」

 雅は思わず跳びはねて、一歩後ろに下がる。

 ザッと、茂みから大きな黒影が飛び出した。

 そこにいたのは、熊型の魔物、エッグベアだ。

「きゃ・・・!?」

 あまりにも突然なことに雅は動けなかった。

「雅!!」

 ソウルは剣を抜き、走り出すが間に合わない。

 魔物の爪が雅に襲い掛かる。

(ヤバイっ!)

 ソウルがそう思った、次の瞬間。

 リタが熊の魔物の懐に飛び込み、
「おらおらぁ!! 奥義、徒手空拳!!」

 リタが魔物にむかって強烈なパンチを繰り出した。

ドコォッ!! という音と共に魔物は、
はるかかなたへと飛んでいってしまった。

「おらおら! ザコはすっこんでな!」

 リタはさっきの穏やかな雰囲気とは真逆な態度で、大声で叫ぶ。

 まるで別人を見ているようだ。


 ソウルと雅は考えもしなかった現実にポカーンと口を開けて固まってしまった。


 ・・・ ・・・。


 しばらくの間、沈黙が続く。

 森に風が吹き、木々がざわざわと葉を揺らす音でリタはハッとして我にかえる。

 顔をリンゴのように真っ赤にして、

「ええ、えと、あ、後でお礼がしたいので、私のお店にぜひよってくださいねっ
!」

 そういって、ものすごい速さで街のほうへと走り去ってしまった。


 あまりにもの急展開。

 兄妹は状況を把握するまでに時間がかかった。

 そしてようやく兄の口が動く。

「なぁ、雅」

 少し間が空いて妹が答える。

「何、ソウル」


「オレたち、あの人助ける必要あったか・・・?」


「・・・、さぁ・・・?」

 兄の率直な疑問に
 妹が首を傾げる。


 ただ立ちすくむ二人を
 森の木漏れ日が照らす。

 少し離れた先に白いレンガ作りの大きな塀が見えた。

 商業と宗教の街 セルリア。

 兄妹の目的地はもう目の前まで近づいていた-。



5)

「うわぁぁぁ~!!」

 雅は目をキラキラさせながら周りをキョロキョロと見ている。

 宗教と商業の街 セルリアは多くの人で賑わっていた。

 この街は幻想世界最大の教会があり、レフティア大陸の中央部にあるため、
信仰者や旅人の通り道となる。

 その人々を狙って商業人も集まるわけだ。

 白のレンガ造りの道や建物が多く、空から降り注ぐ太陽の陽射しが
街をいっそうと輝かしていた。


 人混みの前に立っていた二人。
 とりあえずリタの果物屋を捜すことにしたが、
どこからか喧嘩のような会話が聞こえてくる。


「だーかーら! オレは盗んでねぇって!」

「嘘をつくな! 人間の小僧が! お前以外の誰だと言うのだ!」

 二人から見て右手のほうだった。

 犬の亜人の店主と赤毛で長髪の少年が言い争っていた。
 少年の右には落ち着いた雰囲気で、背の高い女性が立っている。

 亜人とは動物の特徴を持った人型の種族で、その姿は様々である。

 店主はブルドッグの顔で、尻尾もあるようだ。

「ご、ごめんなさい! ほら、あなたも謝りなさい!」

女性が深く頭を下げ、左手を少年の頭にかけて
無理矢理でも謝らそうとしていた。

「痛ててっ! なんでオレが謝らなきゃなんねぇんだよ!
オレは何もしてねぇつーの!」

 赤毛の少年は女性の手をどけようとじたばたしている。

 それを見た店主は飽きれた顔で

「・・・ったく、これ以上厄介事を起こしたらギルドを呼ぶからな。」

 と、言った。


 『ギルド』という店主がなにげなく言ったその言葉。

 ソウルは気になって仕方なかった。

「ギルド・・・、ね」

 ソウルは何か思いふけるようにそっとつぶやく。

「・・・ソウル?」

 雅がヌッと心配そうに顔を覗き込んできたので、ソウルはハッとした。

「あ、ああ・・・。 なんでもない。 どうした?」

 ソウルがいつの間にか流れ出していた額の汗を汗を、
服の袖で拭って雅に尋ねかえす。

 それを聞いた雅は、一つの建物を指差した。

 ソウルは雅の指の先を見る。

 人混みで少し見づらかったが確かにその建物の屋根にこう書かれたいた。


 『すごく美味い! 超激辛マーボーカレーサンド!!』


 ソウルの頭の中で何かが切れるような音がした。

 糸が切れるような。

 ソウルは雅の頭をガッとわしづかみする。

 ひゃっ!? と、思わず雅は叫んで恐る恐るソウルの顔を覗き込む。

 そこにあったのは、兄の満面の笑みだった。

 しかし妹の頭に乗せられた兄の手はギリギリと力が加えられていく。


「なぁ、雅? お前、リンゴ食ったよな? なぁ!?」

「痛い痛い痛ぁーい! ゴメン、ゴメンなさい! ギブギブ!」

 人混みの前で兄妹は漫才を始める。

 周りは、なんだなんだ? とジロジロ見てくる者もいれば、
見て見ぬフリをするものも。

 雅がついに目に涙を浮かべた時、後ろからさっき森で聞いた声がした。

「あらあら。 そんなところに立っていたら、
人の波に飲み込まれてしまいますよ?」

 兄妹は同時に振り向く。

 リボンの少女。
 大地の巫女、リタは口に手をあててクスクスと笑っていた。

 兄妹はハッとして、顔が真っ赤に染まる。

 それを見てさらにリタが ふふふ、と笑う。

 リタは ごめんなさい、と言って続ける。

「ようこそ。 宗教と商業の街 セルリアへ!」



6) このあたりから補正中。

 リタの家は一階が果物屋になっていて、二階が住居スペースとなっている。

 あまり広くはないが風通しや日当たりも良く、台所も風呂もあって、
わりと快適にできる構造になっていた。

 兄妹はリビングでテーブルを囲んで、
リタお手製のアップルティを飲んでくつろいでいるところだ。

 ソウルは帽子を椅子の横にかけ、ゆったりと椅子に座っている。

 帽子を脱いでいるが、長い前髪で相変わらず右目は見えない。

 ソウルはカップを手に取り、少しアップルティを口に含んだ。

 ほのかにリンゴの香りと甘酸っぱさがあるこの紅茶から、
ソウルはリタのリンゴに対するこだわりを感じた。

 市販の物では絶対出せない気品のある味がする。

(さすが、果物屋をやってるだけあるな。 なかなか美味しい)

 紅茶の味をゆっくりと味わうソウル。

 だが、隣を見ると・・・、


「ゴクゴクっ! プハァ~! おかわり!」

 暴食妹、いや今は暴飲娘が目をキラキラさせて、
せっかくの美味な紅茶を飲み荒らしていた。

 どんどん飲んでくださいね♪ と、リタはニコニコしながら言うが
さすがに兄は悪い気がして仕方なかった。


 リタがふと思ったことを口にした。

「ところでお二人の旅の目的は何なのですか?」

 ソウルはコトッとカップを置いて、

「ああ・・・、ちょっと人捜しをな」

「人捜しですか?」

 リタが首を傾げる。

 その横でけぷっと、小さなゲップをして雅がソウルに続いて、

「わたしにはね、三人のお姉ちゃんがいてね。
わたしが小さい時に行方不明になっちゃって・・・」

 と、少しうつむいて言う。


 しかしこの言葉にはひっかかるものをリタは感じた。

「あれ・・・、『には』? お二人は兄妹だったのでは・・・?」

「ああ・・・、オレと雅は血は繋がってねぇんだよ。 義理の兄妹なんだよ」

 二人にとってよくある質問らしい。

 ソウルはフッと鼻を鳴らして、面倒臭そうな顔で答えた。

 リタは少し悪かったでしょうか という顔をしながら会話を続ける。

「あのギルドには依頼を出さないのですか?」

「それはできない!」

 兄妹は同時に大声で答えた。

 リタはビクッとして、口に運んでいたカップを落としそうになった。

「あ・・・ゴメン。 でも、ギルドには頼めないの・・・。 ギルドには・・・」

 雅の頭がさらに下を向く。
 よほどの事情があるらしい。


 さっきからたびたび話に出てくる『ギルド』というのは、
帝国の市民権を捨て、ユニオンを拠点に活動する自治組織のことだ。

 聞こえは悪いかもしれないが、帝国の治安組織である帝国騎士団は、
あくまでも帝国の監視下にあるため皇帝の許可がないと行動を起こせない。

 そのため、民間の小さい声は届かないことが多い。

 ギルドは帝国のように縛られるものはないため、
こういった騎士団の手が行き届かないところへ手を伸ばすことができる。

 しかし自治組織なために、世界や地方を動かすほどの行動はできない。

 帝国とギルド。
この二大勢力が揃ってこそ、ウィティアの平和を支えているのだ。


 少し会話が途切れた。

 コツコツと時計の針が回る音が重い空気に響く。

(あれ・・・、時計・・・?)

 リタはふと壁にかけてある時計を見る。

 時計の針は三時を指していた。

「おかしいですね・・・」

 リタがつぶやいた。

 それに気づいた雅が話し掛ける。

「どしたの?」

「この時間になると教会の鐘の音が聞こえるはずなんです。
教会のシスターさんが広場で神へ祈りを捧げ、
民に神の恵み『魔術』を教える大切な時間なんです」

 リタはすらすらと疑問と説明を述べた。

「神様ねぇ・・・。 本当に魔術が神の恵みなら、こりゃ大事だな・・・」

 ソウルがサラっと言う。
 神とか、そういう類いのものには興味がないらしい。



ココから↓を大きく変更する

 しかし、こういった事件もほってはおけないようだ。

「そんなに大切な時間が中止になるとも思えねぇな」

「そうだね。 確かめに行こう!」

 雅の掛け声と共に三人は立ち上がり、外へとかけていく。

 商業と宗教の街は不穏な空気が漂っていた-。



7)

 街の広場は教会の正面にある。

 広い広場の中心には、人間が一人乗れるほどの演説用の台が置いてあった。

 その周りには人だかりができていたが、台には誰も乗っていない。

 教会のほうにも、様子がおかしいことに気づいた者が大きな波をつくっていた。

 ソウルと雅、リタの三人は広場の手前で立ちすくんでいた。

「うわっ。 こりゃ、すげぇな・・・」

「これじゃ見えないですね・・・」

 ソウルとリタは、はぁ・・・っと深いため息をつく。

 そんな落ち込む兄の袖を雅がギュッと引っ張った。

「ソウル、肩車」

 それがあったか、とソウルがポンと合いの手を打って、
なんのためらいもなく妹を肩に乗せる。

 そういうところが兄妹らしい とリタは思った。

「よし! 雅、何か見えるか?」
「あれ? 教会のほうから誰か出てくるみたいだよ?」

 兄妹が上と下で掛け合う。
 雅は右手を額にあてて、教会の方を眺める。

 白い教会の扉がゆっくりと開き、中から純白の修道服を着た
小さな女の子が出てくるのが見えた。

 少女が広場の台に上がると周りは大きな拍手の音に包まれる。

「お、女の子!?」

 それを見た雅は驚いてソウルから落ちそうになった。

 ソウルもグラッと倒れそうになったが、なんとか姿勢を立て直し、雅を支える。

 それに続けてソウルはリタに質問する。

「危ねぇ・・・。 なぁリタ、どういうことなんだ?」

「ここの教会のトップシスターさんは最年少の女の子なんです。
『禁書目録(インデックス)』と名乗っています」

 リタはソウルの質問にすらすらと答えた。

「禁書の目録(インデックス)ねぇ・・・・。 思いっきり偽名じゃねぇか」

 それを聴いたソウルは少しうさん臭そうな顔で述べる。

 純白のシスターを見ていた雅が突然バタバタし始めた。

「ねね! そのシスターさんが何か話始まるみたいだよ!」

 純白のシスターは人々に囲まれる中、子供らしい声で
崩れた敬語を使って話し始めた。

「皆さん。 インデックスです。 本日は皆さんにお詫びから
言わなくちゃいけません。」

 何だ・・・? と周りがざわつく。

 ソウルたちも彼女の声に耳を傾ける。

「本日遅れたのには訳があります。 実は・・・、」

 インデックスが理由を言おうとした瞬間。


 ズドーン!!


 教会の扉が爆発と共に吹き飛んだのだ。

 人々の叫び声が広場に響く。

「わっわっわぁ!?」

「なんだってんだよ!?」

 兄妹も思わず声をあげた。

 ソウルはすぐに雅を下ろし、揺らめく人波に走り出す。

 雅はすかさず兄の背中を追う。

「ちょっと二人共、どこ行くんですか!?」

 リタも慌ててついていく。

 荒れる大波の中は、少しでも気を抜けば押し流されそうになった。

 三人はなんとか掻き分けて、演説台の手前までたどり着いた。

「!?」

 台の上にいたのは、インデックス・・・その後ろには
黒服、紫色の髪、紅色の眼の少年が変わった型の銃を突き付けていた。

黒衣の少年は淡い紫のマフラーを風になびかせて、
不気味な笑みを浮かべていた。


 そんな状況でもインデックスは冷静で、静かに話を続ける。

「実は、この教会は、黒の一団に乗っ取られました」


 なんだって!? と、人々は逃げ惑う。
さらに波が荒くなっていき、広場の外へと流れていく。


「この教会は我々、黒の一団が占拠した。 なに、心配はいらない。
目的を果たせば、すぐに出ていく。 その間、この女は人質にさせてもらうがな!」

 黒の一団を名乗る少年はそう言ってインデックスを抱え、
ビュンッと教会のほうへと瞬間移動した。

 扉がなくなった白い建物に黒い影が入っていく。


(さっきの方は・・・!?)

 リタはなぜか焦る様子で黒衣の少年を追いかける。

 それを見たソウルはとっさにリタの手を掴んだ。

「リタ! 一人でどこ行く気だ!」

「でも、早く追わないと!」

 リタがソウルの手を振りほどこうと、グイグイと引っ張る。

「一人で行くのは危険だよ!」

 雅がリタに叫んだ。

 でも・・・ と、リタが動きを止める。

 ソウルは少しため息をついて、

「しょうがない・・・。 三人で行こう。
さっさと行って、あのシスターさんを助けるぞ」

 雅とリタが頷く。
 そして、三人はダッと走り出した。

 さっきほど、荒波は大きくはない。

 掻き分ける必要はないが、人々の悲鳴が耳に痛い。

 なんとか人波を越え、三人は教会の中へと入る。


 中は、だだっ広い礼拝堂だ。

 いくつもの木製の長椅子がならんでいた。

 白い壁と床が、天窓からの光でより白く輝いている。

 しかし、その白い床の上に紅いものがいくつも転がっていた。

「血の臭い・・・だな」

「人が死んでいる・・・!?」

 兄妹はそこらに転がっているのは、血を流して倒れている
修道者たちだということに気づく。

 リタはそのうちの一人の女性のもとへ駆け寄る。

「・・・! まだ生きている!!」

 女性は腹部から血を流していた。黒い修道服が紅くにじむ。

「見せてみろ。 ・・・なるほど、応急処置をとればなんとか助かるかな・・・」

 ソウルがそう言って、女性の傷口当たりに手を当てる。

「聖なる活力、来なっ! ファーストエイド!」

 ソウルが詠唱を唱え終わると、女性がまばゆい光に包まれる。

 すると女性の血が止まった。

「治癒魔術が使えるのですか?」

 リタが目を丸くしてソウルに聞く。

「まぁな。 簡単なものしかないけどな」

 ソウルは女性の顔色をうかがいながら答えた。

 女性は少しずつだが穏やかな顔になっていくのがわかる。

 意識も取り戻したようだ。
 目をそっと開ける。

「・・・? 私は生きているの・・・?」

「大丈夫ですか? 何があったんですか?」

 リタが女性に問い掛ける。

「突然、黒い服を着た人たちが入ってきて聖地の場所を聞いてきて、
知らないと言ったら突然襲ってきて・・・」

 女性はすこし苦しそうな声で言った。

「聖地?」

 ソウルが疑問を口にする。

 その疑問をリタが解く。

「聖地とは、このウィティアに八つあると言われる聖なる場所のことです。
そこには万物の根源『マナ』で満たされていると言われています」

 あくまでも伝説ですけど と、リタは付け足す。

「みんな殺されてしまった・・・。 トップシスターは・・・?」

 女性はボロボロの身体でも彼女の心配をしている。

 それほどこの教会にとって大切な存在なようだ。
あの少女は。 ソウルは女性に話しかける。

「今、人質になっている。 だけど心配すんな。 オレたちが助ける。 絶対にな」

だろ、雅? と、ソウルは後ろにいる雅に言い、雅はうなずく。

「ありがとう・・・」

 女性は安心したようだ。
 そのまま深い眠りについた。

 さてと、とソウルは立ち上がってリタに言う。

「リタ、この人は任せた。 オレたちは、アイツらぶん殴ってくる」

「でも、危険ですよ! 私も行きます!」

 リタが兄妹についていこうとする。

「ダメだよ!」

 雅がそれを止めようとする。

 雅は力強い眼差しでリタを見つめる。
 その眼はいつものかわいらしいものと違う。

 そのまっすぐな眼はリタの足を止めた。

 雅は力強く言う。

「今、誰かがこの人を安全な場所に連れて行かなきゃ、この人は死んじゃう。
この街に住んでるリタなら治療できる場所とかそういう場所、知ってるよね?!」

 でも・・・と、リタは後ずさる。

「大丈夫だ」

 ソウルが雅に続けて戸惑うリタに言った。

「大丈夫だ。 オレたち、こういうのは慣れてっから。 リタ、その人を頼むぜ?」

 ソウルは少し微笑んだ。
 彼の眼もまた、まっすぐな力強い眼をしていた。

 それを見たリタは、どこか懐かしい顔を思いだす。

 今はどこにいるかわからない、一人の少年を。

「・・・わかりました。 私、助けます! この人を。 二人も気をつけて」

 リタの眼差しも強くなった。

 それを見た兄妹は、深くうなずいた。

 兄妹とリボンの少女は背中を向け合い、走り出す。

 それぞれの目的に-。

8)

 黒衣の少年は、縄で縛られて床に転がっている白いシスター、
インデックスを見下ろしていた。
その眼は血のように紅く、光が入らない。

 身動きの取れないインデックスは少年を見つめながらじたばたと転がりまわる。

 ここは教会の最上階。
 トップシスターの私室だ。
 本当に小さな部屋で、事務机と本棚が一つずつ置いてあり、
小さな窓が一つあるだけのシンプルな部屋だ。

 インデックスは少年に話かける。

「あなたたちの目的は何? 聖地を捜してどうする気なの?」

「お前には関係ないことだ」

 少年はフンと、鼻を鳴らして無愛想に答えた。

 その態度を見たインデックスは口を膨らまして、さらに暴れまわる。


(ん・・・?)

 少年はシスターが暴れまわるたびに縄が少しずつ緩んでいくことに気がついた。

(さっきしっかりと縛ったはずだが・・・)

 少年は少し眉間にしわをよせて、口に手を当てる。

「なんで、って顔してるね?」

 インデックスが少年の様子に気づき、話かけた。

 少年は少し目を丸くする。

「・・・なんだ、縄解きの趣味でもあるのか?」

 あくまでも冷静に言う。

 それに対してインデックスはさらに機嫌を悪くする。

「そんな趣味はない! ・・・でも、知識はあるよ。
この十万三千冊の魔術書の中にね」

「十万三千冊? まさかそれを全て記憶してるとでも言うのか?」

 少年はインデックスのありえない発言に少しバカにした声で答える。

 しかし、白いシスターはうなずく。
その顔は自信に溢れていた。

「フフフフ・・・ハッハッハ!! まさか、この教会のトップシスターが
ただの夢見るガキとはっ!!」

 それを見た少年は高らかに笑い出した。

 小さな個室に彼の声が響く。

 少ししてから少年は気持ちを落ち着け、インデックスの縄をギュッと縛り直す。

 インデックスはホントだもん!と、さらにバタバタと暴れまわす。

 少年が縛り直し終わった、その時、

 バンッ!!

 小部屋の扉が勢いよく開いた。

 扉の向こうには黒いフードを被った男が立っていた。

 男は早口で少年に言う。

「サバタ様。 光の聖地らしき場所をこの教会の地下で発見しました!」

 それを聴いた黒衣の少年は、ニヤリと不気味に微笑み、

「よくやった。 『例の物』の回収を始めろ。 オレも行く」

 そう言って扉のほうへと向かう。

(『例の物』・・・?)

 インデックスは少年が口にした言葉に疑問を抱く。

 確かめたいが今は身動きが取れない。
 縄を解くためじたばたするが、黒いマントの男に抑えるられてしまった。

「サバタ様、この娘はどうなさいますか!?」

 男は少年に尋ねる。

 少年はフンと、鼻を鳴らして言った。

「適当に掃除用具入れにでもぶち込んでろ」

「え!?」

 黒衣の少年の思わぬ発言にインデックスは驚いた。

 そのまま白いシスターは男にひょいとつままれて、
部屋の前の廊下に置いてあった掃除用具入れのロッカーに閉じ込められてしまった。



9)

 兄妹は教会の白く輝く階段を駆け上がっていた。

 このセルリアの教会は5階建てになっていて、階段が無駄に長い。

 そのため、上るにも時間がかかるが、
黒服の集団が戦闘体制で待ち伏せているのでさらに時間がかかる。

 やっとの思いで兄妹は5階にたどり着いたが、もうヘトヘトだった。

「なんだってんだよ、アイツら・・・」

「もう、ダメかも・・・」


 彼らの前には短い廊下が続いていた。

 ここの廊下も床、壁共に白い。

 廊下の先に小さな扉がある。

 おそらくあそこがトップシスターの私室だと、ソウルは思った・・・が、
その前に扉の手前に置いてある掃除用具入れのロッカーから
バンバン、ガタガタ と揺れていることが気になった。

 兄妹は恐る恐るロッカーに近づく。

「・・・なぁ、雅。 コレ開けたら、魔物でしたーってオチじゃねぇよな?」

「ロッカーから出てくる魔物なんて聞いたことないけど・・・」

 二人は怪しく揺れるロッカーをじーっと見つめた後、話し合いの結果で
兄が開けることにした。

 ソウルはそーっとロッカーの扉に手を伸ばす。

 取っ手に手をかけ、引こうとした。

 その時、バンッ と勢いよくロッカーの扉が開き、
中から白い何かがドサッと、ソウルに飛び掛かってきた。

 そのままソウルは押し倒され、仰向けでバンッと床に叩きつけられる。

 うごっ!?  と、ソウルは思わず声をあげてしまう。

「ぬぅあ~・・・、 なんだってんだよ・・・!?」

 ソウルはお腹の上に伸し掛かる何かに目を落とす。

 そこには、白い修道服を着た銀髪の少女が、
顔をソウルのお腹に押し付けて倒れていた。

 広場の演説台の上に立っていたトップシスターの少女だった。

「んっ・・・? アレ、痛くない?」

 少女が顔をあげる。
 彼女の碧色の目が赤帽子の少年の紅眼と合う。

 ・・・。

 しばらくの沈黙の後、二人は顔をみるみる赤く染めてガバッと、
勢いよく立ち上がった。

 それを見た雅は、ニヤニヤとした表情で二人を見つめる。

「あ、あなたたちは!?」

 純白のシスターが慌てた口調で兄妹に問う。

「わたしは雅。 悠久の風の雅だよ。」

 先に雅が答え、ソウルは戸惑う気持ちを落ち着けて続ける。

「オレはソウル。 ソウ・エンフォンだ。 あんたを助けに来た」

 シスターの少女も荒れた呼吸を調えた。

 少し間を空けてから言う。

「私はインデックス。 Index-Librorum-Prohibitorum、禁書目録だよ」

 インデックスが名乗ったのは、明らかに人の名とは違う響きだ。

 しかも、
「魔法名ならDedicatus545だね」
 なんて意味不明な補足を付け足す。

(なんて、うさん臭いんだよ・・・)

 ソウルが心の中でつぶやく。
 ツッコミたかったが、面倒臭そうなので止めた。

 とりあえずソウルは、なぜロッカーの中に居たのか、
黒の一団について、今の状況などについてを聞くことにした。

 それに対してインデックスが丁寧に説明していく。

 サバタと呼ばれる少年に縄で縛られ、
さらに掃除用具ロッカーに閉じ込められたこと。

 今、サバタたちは教会の地下にある聖地にいること。

 そして、縄を自分で解いてロッカーから飛び出した時にソウルと
雅に出会ったことまで。

「・・・というわけなの」

「なるほどね・・・」

 兄妹が同時につぶやく。

「あの人たち、何かを探しているみたいだった。
早くしないと、何をされるかわからないよ!」

 インデックスは焦っているようだった。
今にも走り出しそうな雰囲気だ。

それを見たソウルは少し冷たい口調で言う。

「落ち着け。 あんた一人で何ができる?」

「うっ・・・」

 インデックスの動きが止まる。

「止めてもあなたは行くよね? だったら、わたしたちと一緒に行こ?」

 雅がインデックスをジッと見つめて言う。

 純白のシスターは、少し悩んでから首を縦に振った。

「わかった・・・、行こう。 一緒に」

 それを聴いたソウルは、

「んじゃ、さっさと終わらそうぜ」

 そう言って早々と歩きだす。

 雅とインデックスも、うん と言ってソウルの後に続く。

 目指すは教会の地下。
 しかし、この後の出来事が兄妹の運命を変えてしまうとは、
この時、誰も知らなかった-。



10)

 教会の隠された階段。
 それを駆け降りると、例の地下はある。

 地下には一つの真っ暗な小部屋があるだけだ。

 壁に取り付けられた無数のロウソクと、
唯一の扉の隙間からの光が
闇に包まれているこの部屋をわずかに照らしていた。

その部屋の最も奥には祭壇らしきものがあり、
黒の一団の少年が複数の黒いフードの部下を引き連れて、その前に立っている。

 祭壇の上には紅い箱のような物が置かれていた。

 箱の真ん中には蒼い水晶がはめ込まれている。

「サバタ様。 ここが光の聖地かと」

 一人の部下が言う。

 サバタと呼ばれる少年はフッと笑い、その部下に聞く。

「『例の物』はどうなっている?」

「回収準備は整っています!」

 部下は深々と頭を下げて答えた。

 さらに別の部下が言う。

「サバタ様。 上で見張りが次々と兄妹を名乗る
二人組に倒されているという報告が・・・!」

 それに対してサバタは、

「構わん。 回収を始めろ!」

 サバタの掛け声と共に部下たちが一斉に何かの詠唱を呟き始めた。

 不気味な声が部屋中に響きわたる。

 すると、その声に答えるかのように祭壇の上の紅い箱のようなものが
物凄い速さで震え始めた。


 ブワッ!!


 突然、部屋中に光が溢れ出す。

 その光の正体。

「物凄い量のマナだ・・・!!」

 サバタが不気味な笑みを浮かべながら言った。

 溢れ出したマナは祭壇の上、あの紅い箱に集まっていく。

 紅い箱はゴウゴウと音をたて、マナをどんどん吸い込む。

「サバタ様! 順調です。 このままいけば、十分ほどで完了するかと」

 部下の一人が詠唱を一時止め、途中経過を上司に報告する。

 サバタは眉間なしわを寄せ、真剣な顔になった。

 さっきの笑みが消える。

「いや、もう少しかかるだろう・・・」

 黒衣の少年が後ろの扉を振り向いたその時、


 バンッ!!


 その扉が勢いよく開いたのだ。

 部屋に上からの光が差し込む。

 そこにいたのは、赤帽子の少年と緑の髪の少女。
 そして、純白のシスターだった。

 緑の髪の少女が言う。

「そこの人たち! 黒の一団だか、なんだか知らないけど・・・」

 そして一旦溜めて、

「みーーんな、わたしがやっつけるんだからぁ!!」

 部屋中に彼女の声が響きわたる。


 ・・・。


 黒の一団は皆沈黙し、緑の髪の少女を白い眼で見つめた。

 それを見た赤帽子の少年が言う。

「おい、雅。 バカにされてんぞ」

「う、うるさいっ!」

 少女の顔はみるみる赤くなっていく。

「貴様ら、何をしにここに来た?」

 サバタはゆっくりと扉のほうに近きながら問いた。

 それを聴いた純白のシスターが前に出て問い返す。

「貴方たちこそ何? この神聖な場所で何をしているの?」

「お前は・・・たしか禁書目録(インデックス)だったな・・・。」

 サバタが紅い眼でインデックスを睨む。

「お前が本当に十万三千冊の魔術書を記憶しているなら、
オレたちが何をしているかわかるだろう?」

 挑発にも聞こえるサバタの言葉。

 インデックスは周りを見渡した。

 溢れ出すマナ。
 集団で詠唱を唱える人々。
 祭壇の上の紅い箱。

「これは・・・マナを集める魔術・・・?」

 インデックスがそう言うと、サバタはフッと笑う。

「その通り。 オレたちはマナを集めている。」

「何のために?」

 赤帽子の少年が聞いた。

「貴様らは?」

 サバタは残りの二人に眼を向け、問い掛ける。

「わたしは雅。 悠久の風の雅。」

「オレはソウ・エンフォン。コイツの兄貴だ。」

 兄妹が答えた。

 それを聴いたサバタは気づく。

「そうか・・・貴様らが、報告にあった兄妹を名乗る二人組か。」

 サバタはニヤリと笑い、術を唱える部下たちに

「コイツらはオレがやる。 お前らは回収を続けろ!」

 そう言うと、腰に付けた黒い銃を引き抜き、三人に突き付ける。

 それを見た兄妹も武器を構えた。

 インデックスは戦う力がないようで、陰に隠れる。

 サバタが言う。
 
「貴様らの実力・・・、試させてもらう。」

 そして・・・、

「行くぞっ!!」--

--------------

11)

「行くぞっ!!」

 サバタの掛け声と共にソウルは走り出した。

「喰らえ! 竜迅剣!!」

 ソウルは瞬時にサバタの懐に飛び込み、両手に構えた剣を振る。

 ガシッ!!

 それをサバタはとっさに銃で受け止めた。

 ギリギリッと武器と武器がぶつかる音が鳴る。

 両者は睨み合う。

「お前らの目的はなんだ? 何でここを襲う?」

 ソウルはサバタに問い掛けるが、サバタはフッと鼻を鳴らして、

「さてな?」

 と、適当にごまかしてソウルの右手の剣に目を落とす。

「暗黒剣・・・か。」

 ソウルの右手に持つ剣。
 暗黒剣・月影。
 それは黒く、無数の眼のような模様があった。

 暗黒剣とは闇属性のマナが固体化された物、一般的に暗黒物質(ダークマター)
 と呼ばれる物質で作られた魔剣だ。

 その刃に大きな闇の力を秘め、生きているかのように触れるものから
マナを喰らう。

 そのため普通の人では大きな負担がかかり、扱うことは極めて難しい。

 ただ例外がいるのだ。

「お前、闇の一族の血を引いているのか・・・!」

 サバタがニヤリと笑う。

闇の一族はその身に大量の闇のマナをもつ種族で、
不気味でかつ強すぎる力は周りから『汚れた存在』として差別されているのだ。

「何だよ・・・、お前には関係ないだろっ!」

 ソウルはそう言って剣を振り払い、後ろに下がってサバタと距離をとる。

 同じくサバタも後ろに下がる。

「少しはやるようだな・・・!」

 サバタは戦いを楽しんでいるようだった。

 ニヤリと不気味に微笑んでいる。

「そりゃどうも。 でも、前ばっか見てるとこけるぜ?」

 ソウルもまた、少し鼻を膨らませて言う。

「何?」

 サバタが眉をひそめる。

 その時、

 ビュッ!!

 サバタの横から、もの凄い速さで風の刃が襲い掛かる。

「!?」

 サバタはとっさに後ろに下がり、かろうじてそれを回避する。

 サバタはソウルの後ろに立つ雅を見た。

 彼女は眼をつぶり、精神を集中させて魔術の詠唱を唱えている。

「風よ、切り刻め・・・!」

 雅の足元から碧色のマナが浮かび、円陣が描かれてゆく。

「当たれ! ウィンドカッター!!」

 周りの空気が収束し、第二の刃がサバタに飛ぶ。

「マジックガードっ!」

 サバタは蒼い光で身を包み込み、銃を振って刃を受け流した。

 それを見て、ソウルはチッと、舌打ちをする。

「さっきからちょこまかとぉ!!」

 この戦いが始まって、サバタは一度も攻撃をしていない。

 手を抜いているような態度。

 ソウルはそれが気に入らず、イライラする。

 突然、一人の黒の一団の男がサバタに近づいてきた。

「サバタ様。 そろそろ回収が完了します!」

 サバタは少し、うっとうしそうな顔をして、

「そうか・・・、わかった。 すぐに片付ける」

 そう言って、銃を床に向かって構える。

「何のまねだ?」

 ソウルはサバタに問う。

 サバタのいかにも、つまらないという顔で答えた。

「残念ながら時間切れだ。 悪いが、一気に決めさせてもらう」

 そう言い、フンッと鼻を鳴らした後、静かに口を動かす。

「来たれ、永遠の闇よ。 生あるものを飲み込み、死の世界へと誘え」

 サバタの足元から黒いマナが溢れ出し、彼の頭上で巨大な渦を作り出す。

 そして、

「秘奥義、エターナルダークネス!!」

 サバタの叫びと共に、黒い渦がもの凄い勢いで周りの物を吸い込み始めた。

 まるで、ブラックホールのように。

「あ、アレはっ!?」

 急に陰に隠れていたインデックスが飛び出してくる。

「インデックス、危ないよっ!」

 雅が注意をするが、インデックスはそれを気にもせず、慌てた表情で言う。

「そうる、みやび、アレは危険すぎる! 早く逃げてっ!!」

 黒い渦はさらに勢いを増し、大きく膨らんでいくのがわかる。

「こりゃ確かに、逃走したほうが良さそうだな・・・。」

 さすがのソウルも引くしかなかった。

 三人は扉のほうへと走り出す。

 彼らの背中を見たサバタは、

「逃げられると思うな!」

 そう言って黒い渦に手をかざし、叫ぶ。

「暗黒ぉぉぉぉく!!」

 そして、


 ドゴオオオォォォ!!


 黒い渦は吸い込むことを止め、巨大な爆発を起こしたのだ。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 兄妹とシスターは吹き飛び、壁に叩きつけられ、そのまま床に転がり落ちる。

 術を唱え終わったサバタは銃をしまい、さらにつまらなさそうな顔をした。

「こんなものか・・・」

「く、クソっ・・・」

 ソウルは立ち上がろうとする。

 しかし力が入らず、ただはいつくばることしかできない。

 雅とインデックスも気絶してしまったようだ。
 ピクリとも動かない。


 圧倒的な実力差だった。


 サバタはソウルたちに背を向けて、部下のもとへ歩き出す。

「クソったれ! 待ちやがれ!」
 ソウルは床に伏せたまま、最後の気力でサバタに叫んだ。

 サバタが足を止める。

「次に会う時は、もう少し腕を上げておくんだな」

 そう言って、ビュンッと、一瞬で部下たちと共に消えてしまった。


「まち、やが、れ・・・」

 赤帽子の少年はその場に倒れ込む。

(畜生・・・)

 何もできなかった現実。

 込み上げてくる悔しみの感情は、彼を闇に飲み込んでいった-。



12)

 気がつけばベッドの上にいた。


 教会の地下で気絶していた兄妹は、そのままリタの家に運びこまれたのだ。

 あの女性と白い修道服の少女は、この町の病院のほうへ送られたらしい。

 命に別状はなく、軽い怪我で済んだそうだ。

 兄妹もそれほど大きな怪我もなく、
今は椅子に腰をかけてリンゴの紅茶をすすっていた。

 雅がふと呟く。

「あの人たちは何を考えていたのかな・・・?」

 ソウルは眉間にしわをよせて、それに答える。

「さぁな・・・」

 黒の一団、サバタ、マナを集める術、そして『例の物』。

 教会で起きたでき事はあまりにも突然で、不穏なものだった。

 ソウルは少し考えてから、

「ま、確実に言えるのは、イイコトじゃないってことだよな・・・」

 そう言うと、紅茶を一口。

 その時、玄関のほうからドアが開く音がした。

 リタが帰ってきたようだ。

「身体はどうですか?」

 リタは右手に木網のバスケットを持っていた。

 中には紅いリンゴが二、三個入っている。

「おかげさまで元気になったよ」

 雅は微笑んで答えた。

 リタは よかったです と言って、バスケットを兄妹が囲むテーブルに置く。

 それを見た雅は目をキラキラと輝かして、今にも飛びつきそうだ。

 ソウルは雅の行動に苦笑いしつつ、リタに言う。

「いろいろと世話になったな」

 それにリタは首を横に振りながら、控えめに答える。

「いえいえ。 二人のおかげでトップシスターは無事でしたし」

 しかし、雅は少しうつむいて言う。

「守れなかったのも、あるけどね・・・」

「雅・・・」

 ソウルも少し暗い表情で言った。

 兄妹は確かにこの街の支えである、あの少女は救うことは出来たのだ。

 しかし多くの人が死んだのも事実。


 沈黙が続いた。


 しばらくしてから、リタが口を開く。

「二人は悪くありませんよ」

「え・・・?」

 雅が顔を上げた。

 リタはそれを見て続ける。

「確かに多くの人が死にました。
でも二人がいなきゃ、もっと多くの人が傷つきましたよ?」

 そしてニッコリ笑って、

「いつも心に太陽を! 前を向いてください!」

 その笑顔は太陽のようだった。

 それを見てソウルはフッと鼻を鳴らす。

「リタ、ありがとな?」

 兄はそう言って、紅茶の最後の一滴を飲み、そっとカップを受け皿に置いた-。



13)

 『例の物』を回収し終えたサバタは、暗い闇に包まれた部屋の中にいた。

「今帰った」

 サバタが言うと、部屋の奥から高めの男性の声が聞こえてくる。

「ご苦労様、サバタさん。 無事に回収できたようですね」

「まぁな」

 サバタは無愛想に答え、さらに続ける。

「今日、闇の一族にあった」

「闇の一族・・・ですか? それはまた珍しいですね。」

 声の持ち主は興味を示したようだ。

「名は『ソウ・エンフォン』と名乗っていた。」

 サバタが言うと、しばらく返事が返ってこなかった。

 どうやら考え込んでいるようだ。

 返ってきても

「『エンフォン』・・・? まさか・・・!?」

 と、独り言が聞こえるだけだった。

「知っているのか?」

 サバタが答う。

 しかし声の持ち主は いえ・・・ とごまかした。

 サバタはチッと舌打ちしつつ、仕方なく報告を続ける。

「恐らく義妹だが、『悠久の風の雅』というガキも連れていた。」

「何!? 何と言う偶然なんでしょうか・・・」

 声の持ち主はさらに驚いたようだった。

 またしばらく考え込む。

「そうか・・・、あの後に・・・」

 そして彼は手を軽く叩く。

 パンパンという音が部屋中に響きわたる。

 するとサバタの右にフッ と突然、一人の背が高い男性が現れた。

 その男性は黒のハットに黒のコートで、
金髪の長髪をいくつもの三つ網みにしている。

「ハイドか・・・」

 サバタは横のハイドと呼ばれる男性を鋭い目で睨む。

 ハイドはやれやれと顔を横に振り、軽い口調で言った。

「おやおやサバタくん、
『アレ』を回収したらしいですね? ケガはないですか?」

「貴様、ふざけてるのか!?」

 サバタは勢いよく腰の銃を引き抜き、ハイドに突き付ける。

「ンフフフ。 野蛮ですね・・・」

 ハイドも笑いながら、ステッキのような物を構える。

「おやめなさい!」

 闇の奥から声が飛んだ。

「私達の目的は争うことではないでしょう?」

 サバタはチッと舌打ちし、武器を下ろす。

 ハイドも残念そうに顔を横に振った。

「ところでハイド。 貴方に頼みたいことがあります。」

 闇に潜む者が言った。

「なんでしょうか?」

 ハイドが答える。

 そして闇に潜む者は、フフっと不気味な笑い声を上げた。

 そして言う。

「我等の同士を招待して差し上げなさい」


 とある闇の奥の奥。
 この世界の歯車を狂わすことが始まろうとしていた-。



14)

 次の日の朝。

 兄妹とリタは街の北門、ソウルたちが入った南門と逆の方角にいた。

「もう行くのですか?」

 リタが寂しそうな声で尋ねる。

 それに雅が答えた。

「うん。 お世話になったね」

「そうですか・・・」

 リタは少しうつむく。

 それを見てソウルはフッと笑い言った。

「大丈夫だよ。 また会えるさ」

 リタは顔を上げる。

 そして笑って言った。

「そうですね・・・、そうですよね!」

 兄妹も微笑む。

 優しい風が三人を包み始める。

「二人はこれからどこへ?」

 リタが尋ねる。

 それにソウルが そうだな・・・ と、少し考えてから答えた。

「こっからだと、さらに北。 ゼノギーアに行こうと思う。」

「歌と工業の町、ですね」

 リタがそう言うと二人はうなずいた。

 それを見てリタはさらに続けて、

「なら、『星読みのザジ』って人を尋ねてみてください。
何か旅の手掛かりになるかも」

「わかった。 ありがと!」

 雅がそう言うと、兄妹は歩き出した。

 リタは手を振る。

 どこまでも。

 彼らの姿が見えなくなるまでー。




プロト版UP 2010/01/30

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nekoRo管理者の火月夜つむり。
なぜうえに小説に走ったのかは謎。