学生戦争 第2話 脱走! ~立ち塞がる壁~
2010/08/08 23:32:17
いろいろ間違ってる学園もの。 しぶとく第2話。
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行間2)
よく考えたら、言い出しっぺの火凛と手を組むって、オレたちオタク的に言うと『チート』じゃね?
(チートってのは改造ってこと。 普段の会話で使うときは、改造級に反則臭いことを言う。)
でも、現実はゲームほど甘くない。
オレたちの周りはすでに戦場と化していた――。
--------------
5)
三時間目。
ついにこの時間が来た。
高鳴る鼓動を抑え、オレは廊下側の一番後ろにある自分の席で授業のスタートを待つ。
そして―。
ガラガラ! と、ゆっくり教室の扉が開く。
長い黒髪でリボンのカチューシャを付けた少女、室長の果集院 組 の号令と共に、クラスが一斉に起立、礼をし、着席する。
「では~、出席を取りますね~」
樫野先生がのんびりした雰囲気で生徒の名前を呼んでいく。
「望月さん~? あれれ~、いないんですかぁ?」
・・・え?
望月 杏子、そして双子の妹の喜妁の姿がない。
アイツら何処行ったんだ・・・!?
先生の顔に黒い雲がかかり始めたとき、室長が、スッと手を挙げた。
「先生。 望月 杏子さん、喜妁さんは保健室に行きました」
固い、冷たい・・・!
なんていうか、果集院は他人を寄せ付けない、冷気? そんなものをまとっている気がする。
・・・てか、保健室!?
果集院の言葉と同時に教室中にも黒い雲が広がっていく。
それはあの双子を心配してるわけじゃないんだ。(二人には悪いけど)
「チッ!! 先越された・・・!」
この状況に気づいた火凛も鋭く尖った舌打ちをした。
この時に実感する。
すでに戦争は始まっているのだということを!!
オレと火凛はお互いを見つめて頷く。
作戦実行だ。
樫野先生が黒板に文字を書き連ねるのに集中するのを見計らう。
カツカツ、というチョークの擦れる音と、先生の天使の囁きのような声が教室に響く。
ヤバイ・・・、眠くなってきた・・・。
授業開始、十分。
周りを見ると、すでに天使に幻想の世界へと誘われた者が多数続出・・・。
恐るべし。 催眠兵器・樫野 紅零。
あぁ・・・、あの茶髪の鉄パイプ少女も息絶えてしまった・・・。
くそっ、オレも、ここで・・・。
--------------
6)
三時間目で生き延びたのは、室長の果集院 組だけだった。
あとは全員眠りについてしまったらしい。
そんな感じでオレたちは、刻々と迫る時間を無駄にしてしまった。
教室の後ろには、縦に三人分の物いれるスペースがある横長の木製のロッカーがある。
オレたちはその上に座って、作戦を立て直していた。
「しくった・・・。 寝ちゃうとはなぁ・・・」
火凛はまだ眠気の残る目を擦りながら、さっきの失敗を振り返る。
まぁ、過ぎたことを悩んでる暇はない。
オレは次のことを考えるために話を振った。
「次は・・・、英語か・・・」
「ゲェ・・・、マジぃ?」
オレがそう言うと、火凛は顔に手を当てて深くため息をつく。
少し諦め気味なような、病み気味なような。
これだけコイツが英語を嫌うのには訳がある。
担当教師のマァム=クリスト先生が原因だ。
マァム先生は金髪、蒼眼の日本育ちのアメリカ人で、英語も日本語もペラペラな実力のある男性教師である。
背も高く、街を歩けば女子から騒がれるとかないとか・・・。
そんな彼には一つ問題がある。
それは―
「Hello! Ms.佐東!」
「出やがったな、この変態教師!!」
女子生徒好き。
しかも超がつくほどのな。
火凛はロッカーから飛び降りると、教師に対してガンを飛ばす。
マァム先生はまだ授業が始まってもないにも関わらず、教室に入ってきては、いつも火凛に話しかけ、一蹴される。
どうやら火凛がお気に入りとか。
どこがいいんだよ、こんな女・・・。
とにかくこの人は教師として、こんなのでいいんだろうか・・・?
てか、よく教育委員会に認められたな・・・。
そんな変態教師は、不良女子中学生に対してナンパ及びにセクハラに近い発言をしては、鉄パイプで顔を打たれている。
しかもその一振りはかなり力がこもっているにも関わらず、痛がるどころか、気持ちよさそうに笑っていた。
ドMって、こういう人のこと指すんだろうな・・・。
「えぇい、今日こそ死ねっ! ドスケベ星人!!」
「ふふふ、そんなに恥ずかしいがらなくてもいいんだよ? 火凛?」
「気安く下の名前を呼ぶなぁぁぁ!!」
怒りがピークに達した火凛の叫びが教室の空気を切り裂く。
ついに、火凛は全力でマァム先生の頭をカチ割にいった!!
ヤバッ、これがヒットすれば警察沙汰だぞっ!?
不良生徒の鉄パイプが物凄い速さで教師の頭を襲う!
そして―
ドゴォォォ!!!
あちゃー・・・。
クリティカルヒット。
鈍い音が教室に響いた。
でも、あれ・・・!?
「ふふふ・・・。 ずいぶんと激しいAttackだね?」
「なっ!?」
火凛は驚きの声をあげる。
確かに火凛の鉄パイプはマァム先生の頭に直撃したはずだ。
しかし、彼は何一つ顔色を変えずに笑って立っている。
頭部からの出血も確認されない・・・。
ホントに異星人か、この人・・・?
「ふふふ・・・、これが愛の力だよ! 愛は人を強くするのさ!」
う、うぜぇぇぇ!!
どんなマンガやゲームでも、ここまでうっとうしいヤツはなかなかいないぞ!?
火凛も驚異的な力とウザさの前に立ちすくむしかないようだ。
樫野先生といい、この先生といい、どうしてウチの学校の教員はチートばかりなんだろう・・・。
「ふふふ・・・、佐東さん、このことは黙っておいてあげよう。 しかし、次はただでは済まさないからね?」
マァム先生はそう言って教卓のほうへ歩いていった。
「火凛、大丈夫か?」
変態教師の様子を伺いつつ、オレは火凛に声をかける。
しかし、火凛は言葉にならない小さな声で唸りながら固まっていた。
その眼には生気が無い・・・。
だいぶ話が反れたけど、オレたちの目的はダッツ争奪だ。
変態教師の打倒じゃない。
次の授業でどうやって抜け出すか、だ。
しかし火凛がこんな状態で大丈夫なのかな・・・。
オレの胸に不安がさらにのしかかる。
そんなこともお構いなしに、タイムリミットは近づけていた―。
--------------
7)
上の空な火凛を無理矢理話を聴かせ、なんとか作戦を立て直したオレは、変態教師の様子を伺っていた。
今度の作戦はトイレに行くふりをすること。
望月姉妹の作戦でわかった。
こっそり抜け出すのは無理だ。
何か理由をこじつけたほうが確実に抜け出せる。
かと言って、同じ理由は怪しまれるしな。
だから定番の理由で行くことにした。
というか、それしかできなかった。
考える時間も、火凛の気力もないしな・・・。
今から点呼が始まるところだった。
もしかしてまた・・・。
「Oh・・・?夏鳥 蓮治 が見当たりませんね?」
やっぱりか・・・!
蓮治は、脳の隅々まで筋肉で出来てそうなくらいの運動馬鹿野郎だ。
いつも休み時間に運動場に出ては走り回り、結局疲れて授業に遅れてくる。
だから教師たちにも、遅れるのが暗黙の了解になりつつあるんだよな・・・。
アイツ、それを狙ったな・・・。
やはりマァム先生も蓮治のことは置いておいて、授業を始める。
さてと、オレたちもそろそろ動くか・・・。
オレは覚悟を決めて手を挙げようとする。
しかし―
「先生、トイレ!!」
そう言ったのは、オレじゃない。
セクシー関西っ子、神美 千湖だった。
「Oh! Ms.神美! 我慢はできないのかい?」
「で、できません! も、もう漏れそうなんや!!」
千湖は少し前屈みになって、上目使いで先生を見つめて叫んだ。
さすが情報屋。
変態教師の弱点をよくわかっていらっしゃる。
・・・て、関心している場合じゃないじゃないか!
「OKー、OKー! サッと行って、サッと帰ってくるんだ!」
あぁ・・・、先越された・・・。
ダメ教師め、少しはためらえよ・・・。
あっさりと手の内を崩されたオレは机にうずくまるしかできなかった・・・。
クソォ・・・。 ここまでか・・・。
しかしこの後、思いもしなかった展開に発展する。
「では、ワークの返却を・・・っと? 英語係の人、職員室から持って来るように頼んでいたはずでは・・・?」
え?
そういえば、英語係はただいま保健室にいる(ふりをしている)望月姉妹だっけか。
彼女らがいないことで、この間提出した教材の返却に死傷が出たのだ。
この時、あの女が動いた。
「ハイ! 先生! あたしが行きます!」
火凛だ。
あの不良少女が、授業のために(しかも、嫌いな教師のに!)自ら立ち上がったのだ!
「Ms.佐東。 どういう風の吹きまわしだい?」
「え~、あたしもたまには先生の役に立ちたいですよ~。 ねっ?」
ぷっ・・・、ぷくくくく!!
や、やべえ、思わず吹き出しそうになった・・・!
火凛が、あの火凛が、アイツの言葉でいう、いい子ぶってる・・・!
それは彼女のプライドを捨てた行為だった。
そう、全ては一つのアイスクリームのため。
彼女はまさに戦場の戦乙女 と化していた。
「あと、一人でじゃ大変なんで、天野君も連れて行っていいですか?」
「火凛! ついに私の愛を理解してくれたのだなっ! いいとも! では、二人とも行ってくれたまえ!」
戦乙女の渾身の一撃は、見事に壁を打ち砕いた!
さすがだぜ、火凛!!
「待って下さい、先生! こんな不良に行かせるなら、室長である私がっ!!」
しかし、そんなオレたちに新たな壁、室長の果集院が立ち塞がる。
だが、火凛は笑っていた。
なぜなら―
「いや、彼女に行かせよう。 Ms.果集院。 不良のあの子が今、正しい道への一歩を踏み出そうとしているのだよ?」
その壁を打ち砕いたのは、さっきの壁。
マァム=クリスト先生だった。
火凛はこれを狙っていた。
自分は彼のお気に入りだから・・・!
「くっ・・・!?」
果集院の顔が歪む。
さすがに室長といえど、教師には勝てないのだから。
「さぁ行くよ、明斗!」
火凛は明るい声でオレを呼ぶ。
オレたちは立ち上がり、駆け出した。
目指すは職員室じゃない。
オレたちの戦場に――。
よく考えたら、言い出しっぺの火凛と手を組むって、オレたちオタク的に言うと『チート』じゃね?
(チートってのは改造ってこと。 普段の会話で使うときは、改造級に反則臭いことを言う。)
でも、現実はゲームほど甘くない。
オレたちの周りはすでに戦場と化していた――。
--------------
5)
三時間目。
ついにこの時間が来た。
高鳴る鼓動を抑え、オレは廊下側の一番後ろにある自分の席で授業のスタートを待つ。
そして―。
ガラガラ! と、ゆっくり教室の扉が開く。
長い黒髪でリボンのカチューシャを付けた少女、室長の
「では~、出席を取りますね~」
樫野先生がのんびりした雰囲気で生徒の名前を呼んでいく。
「望月さん~? あれれ~、いないんですかぁ?」
・・・え?
望月 杏子、そして双子の妹の喜妁の姿がない。
アイツら何処行ったんだ・・・!?
先生の顔に黒い雲がかかり始めたとき、室長が、スッと手を挙げた。
「先生。 望月 杏子さん、喜妁さんは保健室に行きました」
固い、冷たい・・・!
なんていうか、果集院は他人を寄せ付けない、冷気? そんなものをまとっている気がする。
・・・てか、保健室!?
果集院の言葉と同時に教室中にも黒い雲が広がっていく。
それはあの双子を心配してるわけじゃないんだ。(二人には悪いけど)
「チッ!! 先越された・・・!」
この状況に気づいた火凛も鋭く尖った舌打ちをした。
この時に実感する。
すでに戦争は始まっているのだということを!!
オレと火凛はお互いを見つめて頷く。
作戦実行だ。
樫野先生が黒板に文字を書き連ねるのに集中するのを見計らう。
カツカツ、というチョークの擦れる音と、先生の天使の囁きのような声が教室に響く。
ヤバイ・・・、眠くなってきた・・・。
授業開始、十分。
周りを見ると、すでに天使に幻想の世界へと誘われた者が多数続出・・・。
恐るべし。 催眠兵器・樫野 紅零。
あぁ・・・、あの茶髪の鉄パイプ少女も息絶えてしまった・・・。
くそっ、オレも、ここで・・・。
--------------
6)
三時間目で生き延びたのは、室長の果集院 組だけだった。
あとは全員眠りについてしまったらしい。
そんな感じでオレたちは、刻々と迫る時間を無駄にしてしまった。
教室の後ろには、縦に三人分の物いれるスペースがある横長の木製のロッカーがある。
オレたちはその上に座って、作戦を立て直していた。
「しくった・・・。 寝ちゃうとはなぁ・・・」
火凛はまだ眠気の残る目を擦りながら、さっきの失敗を振り返る。
まぁ、過ぎたことを悩んでる暇はない。
オレは次のことを考えるために話を振った。
「次は・・・、英語か・・・」
「ゲェ・・・、マジぃ?」
オレがそう言うと、火凛は顔に手を当てて深くため息をつく。
少し諦め気味なような、病み気味なような。
これだけコイツが英語を嫌うのには訳がある。
担当教師のマァム=クリスト先生が原因だ。
マァム先生は金髪、蒼眼の日本育ちのアメリカ人で、英語も日本語もペラペラな実力のある男性教師である。
背も高く、街を歩けば女子から騒がれるとかないとか・・・。
そんな彼には一つ問題がある。
それは―
「Hello! Ms.佐東!」
「出やがったな、この変態教師!!」
女子生徒好き。
しかも超がつくほどのな。
火凛はロッカーから飛び降りると、教師に対してガンを飛ばす。
マァム先生はまだ授業が始まってもないにも関わらず、教室に入ってきては、いつも火凛に話しかけ、一蹴される。
どうやら火凛がお気に入りとか。
どこがいいんだよ、こんな女・・・。
とにかくこの人は教師として、こんなのでいいんだろうか・・・?
てか、よく教育委員会に認められたな・・・。
そんな変態教師は、不良女子中学生に対してナンパ及びにセクハラに近い発言をしては、鉄パイプで顔を打たれている。
しかもその一振りはかなり力がこもっているにも関わらず、痛がるどころか、気持ちよさそうに笑っていた。
ドMって、こういう人のこと指すんだろうな・・・。
「えぇい、今日こそ死ねっ! ドスケベ星人!!」
「ふふふ、そんなに恥ずかしいがらなくてもいいんだよ? 火凛?」
「気安く下の名前を呼ぶなぁぁぁ!!」
怒りがピークに達した火凛の叫びが教室の空気を切り裂く。
ついに、火凛は全力でマァム先生の頭をカチ割にいった!!
ヤバッ、これがヒットすれば警察沙汰だぞっ!?
不良生徒の鉄パイプが物凄い速さで教師の頭を襲う!
そして―
ドゴォォォ!!!
あちゃー・・・。
クリティカルヒット。
鈍い音が教室に響いた。
でも、あれ・・・!?
「ふふふ・・・。 ずいぶんと激しいAttackだね?」
「なっ!?」
火凛は驚きの声をあげる。
確かに火凛の鉄パイプはマァム先生の頭に直撃したはずだ。
しかし、彼は何一つ顔色を変えずに笑って立っている。
頭部からの出血も確認されない・・・。
ホントに異星人か、この人・・・?
「ふふふ・・・、これが愛の力だよ! 愛は人を強くするのさ!」
う、うぜぇぇぇ!!
どんなマンガやゲームでも、ここまでうっとうしいヤツはなかなかいないぞ!?
火凛も驚異的な力とウザさの前に立ちすくむしかないようだ。
樫野先生といい、この先生といい、どうしてウチの学校の教員はチートばかりなんだろう・・・。
「ふふふ・・・、佐東さん、このことは黙っておいてあげよう。 しかし、次はただでは済まさないからね?」
マァム先生はそう言って教卓のほうへ歩いていった。
「火凛、大丈夫か?」
変態教師の様子を伺いつつ、オレは火凛に声をかける。
しかし、火凛は言葉にならない小さな声で唸りながら固まっていた。
その眼には生気が無い・・・。
だいぶ話が反れたけど、オレたちの目的はダッツ争奪だ。
変態教師の打倒じゃない。
次の授業でどうやって抜け出すか、だ。
しかし火凛がこんな状態で大丈夫なのかな・・・。
オレの胸に不安がさらにのしかかる。
そんなこともお構いなしに、タイムリミットは近づけていた―。
--------------
7)
上の空な火凛を無理矢理話を聴かせ、なんとか作戦を立て直したオレは、変態教師の様子を伺っていた。
今度の作戦はトイレに行くふりをすること。
望月姉妹の作戦でわかった。
こっそり抜け出すのは無理だ。
何か理由をこじつけたほうが確実に抜け出せる。
かと言って、同じ理由は怪しまれるしな。
だから定番の理由で行くことにした。
というか、それしかできなかった。
考える時間も、火凛の気力もないしな・・・。
今から点呼が始まるところだった。
もしかしてまた・・・。
「Oh・・・?
やっぱりか・・・!
蓮治は、脳の隅々まで筋肉で出来てそうなくらいの運動馬鹿野郎だ。
いつも休み時間に運動場に出ては走り回り、結局疲れて授業に遅れてくる。
だから教師たちにも、遅れるのが暗黙の了解になりつつあるんだよな・・・。
アイツ、それを狙ったな・・・。
やはりマァム先生も蓮治のことは置いておいて、授業を始める。
さてと、オレたちもそろそろ動くか・・・。
オレは覚悟を決めて手を挙げようとする。
しかし―
「先生、トイレ!!」
そう言ったのは、オレじゃない。
セクシー関西っ子、神美 千湖だった。
「Oh! Ms.神美! 我慢はできないのかい?」
「で、できません! も、もう漏れそうなんや!!」
千湖は少し前屈みになって、上目使いで先生を見つめて叫んだ。
さすが情報屋。
変態教師の弱点をよくわかっていらっしゃる。
・・・て、関心している場合じゃないじゃないか!
「OKー、OKー! サッと行って、サッと帰ってくるんだ!」
あぁ・・・、先越された・・・。
ダメ教師め、少しはためらえよ・・・。
あっさりと手の内を崩されたオレは机にうずくまるしかできなかった・・・。
クソォ・・・。 ここまでか・・・。
しかしこの後、思いもしなかった展開に発展する。
「では、ワークの返却を・・・っと? 英語係の人、職員室から持って来るように頼んでいたはずでは・・・?」
え?
そういえば、英語係はただいま保健室にいる(ふりをしている)望月姉妹だっけか。
彼女らがいないことで、この間提出した教材の返却に死傷が出たのだ。
この時、あの女が動いた。
「ハイ! 先生! あたしが行きます!」
火凛だ。
あの不良少女が、授業のために(しかも、嫌いな教師のに!)自ら立ち上がったのだ!
「Ms.佐東。 どういう風の吹きまわしだい?」
「え~、あたしもたまには先生の役に立ちたいですよ~。 ねっ?」
ぷっ・・・、ぷくくくく!!
や、やべえ、思わず吹き出しそうになった・・・!
火凛が、あの火凛が、アイツの言葉でいう、いい子ぶってる・・・!
それは彼女のプライドを捨てた行為だった。
そう、全ては一つのアイスクリームのため。
彼女はまさに戦場の
「あと、一人でじゃ大変なんで、天野君も連れて行っていいですか?」
「火凛! ついに私の愛を理解してくれたのだなっ! いいとも! では、二人とも行ってくれたまえ!」
戦乙女の渾身の一撃は、見事に壁を打ち砕いた!
さすがだぜ、火凛!!
「待って下さい、先生! こんな不良に行かせるなら、室長である私がっ!!」
しかし、そんなオレたちに新たな壁、室長の果集院が立ち塞がる。
だが、火凛は笑っていた。
なぜなら―
「いや、彼女に行かせよう。 Ms.果集院。 不良のあの子が今、正しい道への一歩を踏み出そうとしているのだよ?」
その壁を打ち砕いたのは、さっきの壁。
マァム=クリスト先生だった。
火凛はこれを狙っていた。
自分は彼のお気に入りだから・・・!
「くっ・・・!?」
果集院の顔が歪む。
さすがに室長といえど、教師には勝てないのだから。
「さぁ行くよ、明斗!」
火凛は明るい声でオレを呼ぶ。
オレたちは立ち上がり、駆け出した。
目指すは職員室じゃない。
オレたちの戦場に――。
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