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Soul・Link 第一話 完成版。 上

Soul・Link 第1話 商業と宗教の街 セルリア

1)


 ざわざわっ・・・。


 穏やかな風が吹き、
周りの背の高い木々が、深い緑の葉を擦りあわせ、
どこか落ち着く優しい音色を奏でている。



 ここはセルリアの森。

 レフティア大陸・中央部にある「商業と宗教の街 セルリア」の
周辺に広がる大きな森林地帯だ。

 草木が生い茂るこの場所だが、
森の中心に広大な自然を南北に分ける一本の道がある。

 この道が、商業と宗教の街へと続くのだ。

 しかし、ここ最近の魔物の凶暴化により人通りは少なくなり、
森は静けさに包まれていた。


 薄暗いこの森をとある兄妹は歩いていた。


「ねぇソウル~・・・。 お腹空いたんだけど~・・・」

「なんだよ、雅(みやび)。 さっき昼飯、食ったとこだろが・・・」

 後ろで前屈みになり、手をだらりとしている妹の暴食発言を、
兄はため息をつきながら受け流す。


 兄、ソウ・エンフォン。

 通称、ソウルは十五歳の少年だ。

 少し長い黒髪を揺らし、赤いパーカーを着ていて、
左眼は紅く、右眼は深く被った赤帽子で見えない。

 首にかけたゴーグルと、
腰につけ、二本の剣を納めた四角い箱のようなもの、
「剣納魔導器(スケバード・ブラスティア)」は木漏れ日を浴びて輝いていた。


 妹の雅は少し小柄で、腰まである優しい緑の髪を大きなリボンでくくっている。

 ぶかぶかの上着を着て、その上から腰に布を巻き、
時々服の隙間から見える短いスカートがかなりきわどい。

 巻き布には何かの動物の尻尾のようなフワフワしたアクセサリーが付けられていて、
愛らしく揺れている。


 二人はセルリアを目指し、北へと進んでいるところだ。

「ねぇねぇソウル。 次の街に着いたさぁ、何か甘いもの買ってほしいなぁ・・・」

「ダメだっての! お前のせいで食費がヤバイってのに、無一文になるっての!」

 ソウルは雅の方を向いて、現実を叫びぶつける。

 甘えた声でのおねだりも兄はあっさり一蹴されてしまった雅は、
口を膨らまして若干涙目になっている。

 ソウルは、面倒臭そうな目で雅を見つめてまた、はぁ・・・、と一息。


 その時―。

ガバッ! と突然、雅が抱き着いてきたのだ。

「!?」

 ソウルは突然の出来事で少し戸惑う。

 いや、誰でも少女が抱き着いてきたら戸惑うはずだ。

 たとえ妹でも。

「み、雅・・・?」

 ソウルが顔を赤くして、問い掛ける。

 あのね・・・、と雅の口が動く。

 そして―。


「やっぱりマーボーカレーサンドがいい!」

「やっぱ、それかよっ!!」

 超ガッカリ展開。

 涙目な兄。

 長年の間、一緒に暮らしてきた彼らだが、
ソウルの最大の悩みがこの雅の暴食癖と生意気な性格である。

 雅ももう十三になる。

そろそろ成長してほしいが・・・、

「期待したオレがバカでした・・・」

「何、そのセリフは!?」


 ぎゃーぎゃー、と騒ぐ兄妹の声が静かな森に響きわたる。

 アップルグミでもいいから! というボケも、

 それは薬だろがっ! というツッコミも、

 森の奥の奥、その奥の闇まで響き、吸い込まれていった―。



2)


「アップルグミでもいいからさぁ!」

「だからそれはおやつじゃなぇっての!」

 森の真ん中で漫才を繰り広げている兄妹。

 かれこれ30分は続いている。

 赤帽子の兄はいい加減に止めたく、目を細めてウンザリしているところだ。

 (ちなみにアップルグミとは、リンゴ味のグミ状の回復アイテムで、
食べれば体力が回復するという魔物と戦う旅人の必需品だが、
一つ250R(リーヤ)と少々値段が張る。)


 なんとかこの話にケリをつけたいが、かと言って雅に
三食以外で食費を増やされるわけにはいかない。

「どうすれば・・・」

 ソウルはため息ながらつぶやいく。


 その時だった。


 びゅおぉぉぉっ・・・。


 風向きが突然変わった。

重い空気が暗い森の奥から流れ、木々がざわざわと、不吉な音を奏でる。

「風が・・・脅えてる・・・?」

 雅は空を見上げて、少し不安げに言う。


 そして・・・、


「きゃぁぁぁぁぁ!」

 道の先から少女の悲鳴が聞こえてきたのだ。

「!?」

 ソウルと雅は声のする方に振り向く。


 少し先方に少女が狼型の魔物に襲われていたのだ。
 
 森に漂う空気は嘘をつかない。

 なんとも最悪で、お決まりのパターンだ。

 ちっ・・・、と、ソウルは舌打ちをして雅に

 「行くぞ!」

 と、声をかけて振り向く。

 ・・・が、

「あ、いねぇ!?」

 さっきまで後ろにいた雅はすでに少女のほうに走り出していた。

「ちょっと助けてくる!」

「えっ、ちょっ、雅!?」

 ったく・・・、とソウルは少しめんどくさそうに顔を下げてつぶやく。

 そして、腰につけた「刀納魔導器」に納められた二本の剣に手をかけ・・・、

「世話のかかる妹だなっ!」

 そう言って勢いよく剣を引き抜いた。


 森には、風がより強く吹きだした―。



3)


「グルルルルルゥ・・・」

 魔物は飢えていた。

 ここ何日も獲物にありつけなかったようだ。

 そこに通りかかった一人の人間の少女。

 これは逃すわけにはいかない。

「うぅ・・・」

 少女のほうは突然、目の前に現れた魔物に戸惑っていた。

 ブラウンの髪が乱れ、青いワンピースについた大きなリボンには
爪で切り裂かれたような跡がある。

 足元には少女が持っていた小さなバスケットと
2、3個の太陽のように紅いリンゴが転がっていた。


(・・・なんとかしなきゃ。 ・・・なんとかしなきゃ)


 少女はそう心の中でつぶやくが足はピクリとも動かない。


(どうしよう・・・。 どうしよう・・・!)


 魔物が、じりっ・・・、じりっ・・・、と少しずつ近いてくるたびに
胸の鼓動がドクドクと速くなっていく。


(誰か・・・。 誰か・・・!!)


 魔物が、ダッ! と走り出した。

 欲に塗れた牙を光らして。

 不吉な足音を鳴らして。

 思わずリボンの少女は目を閉じる。

 そして―。


 ドスッ・・・。


 静かな森の空気鈍く重い音が響く。

 しかし―。

「え・・・?」

 少女は目をそっと開けた。

 生きている。

 魔物は少し離れた場所で血を腹部からドクドクと流して横たわっていた。

 さっきの音は少女の肉が引き裂かれた音でない。

 魔物の肉の方だったのだ。

 リボンの少女は震えた声で、

「な、何が起こったんでしょうか・・・?」

 そう言ってへなへなとその場に座り込んでしまった。

 あまりの急展開で、まだ胸の鼓動は速い。

 彼女は、はぁ・・・、と一息ついた時後ろから人の声がした。

「大丈夫ですか?」

 リボンの少女は声の方を振り向く。

 そこにいたのは、緑の髪をした小さな女の子と赤帽子の少年だった。



4)


 ソウルと雅はセルリアの森でたまたま人に出会った。

 その人はウルフと呼ばれる狼型の魔物に襲われていて、
今にも頭から食い殺されようとしていた。

 二人は、「絶風刃(ゼップウジン)」という
風の刃を飛ばす合体技で魔物を蹴散らしたところだ。


「あ、あの、さっきは助けてくれてありがとうございましたっ!」

 リボンの少女は深々と頭を下げる。

「私はリタ。 大地の巫女(みこ)のリタです!」

 リタと名乗る少女は再度、頭を下げてお礼を言う。

 礼儀のある少女だ。

「わたしは雅。 悠久の風の雅だよ! それでこっちがバカ兄の・・・」

「バカは余計だ! ソウ・エンフォンだ。 ま、ソウルって呼んでくれればいいよ」

 雅の明るく振る舞うのに対して、ソウルは無愛想だ。

 こういうのはあまり馴れないらしい。

 ソウルは足元に転がった紅い果物に気づく。

「リタ、コイツらは?」

 そうリタに問い掛けて、一つ拾いあげる。

 それにリタは、ああ・・・、と呟いて、

「私、この先のセルリアで果物屋をやっているんです」

 と答えた。

 彼女はさらに続けて、

「果樹園へこのリンゴを取りに行った帰りに襲われて・・・」

 リタは、これでは売り物になりませんね・・・、と言って
困った顔をしてため息をつく。

 ソウルはふ~んとつぶやいて、さらに質問を続けた。

「これ一ついくら?」

「えっ・・・?」

「これ一つ、元々何R(リーヤ)するかって聞いてんの」

 リタは思ってなかった質問に戸惑う。

 100Rです と、答えると

 ソウルはニッと笑って、

「よし、半額で二つ買った!」

 そう言って財布を取り出して、リタに100R渡す。

「ええ、で、でも!?」

 リタはさらに戸惑う。

 思わずお金を落としそうになった。

「別にいいだろ? 売り物にはなんねぇけど、まだ食えるんだから」

 リタのことなどお構いなしにもう一つ、足元のリンゴの拾って雅に投げる。

 雅は、パシッ! と両手でリンゴをキャッチして、そのままガブリとかぶりつく。

「んっ~!! 甘~い!!」

 雅は満面の笑みで、その場に小刻みで足踏みしながらはしゃぐ。

 リタは再び頭を下げて、ありがとうございます! と言った。

 ソウルのほうはというと、雅との漫才を止めるきっかけとなって、
内心ラッキーだった。

本来の一個の値段で二つ買えたのだから、薄っぺらい財布には大喜びだ。


「二人はどうしてこの森に? やっぱりセルリアに行くのですか?」

 リタは少し嬉しそうにソウルに問い掛ける。

「まぁな。 オレたち旅をしてるんでね」

 そうソウルがリンゴを一かじりして答えるとリタは、旅ですかー、
と関心しながら首を縦に少し振る。


 雅はリンゴの実を早くも食べつくし、ポイッ、と草むらに芯を捨てた。

 その時、ガザガサッ! と大きく草が揺れた。

「!?」

 雅は思わず跳びはねて、一歩後ろに下がる。

 ザッ、と茂みから大きな黒影が飛び出した。

 そこにいたのは、熊型の魔物、エッグベアだ。

「きゃ・・・!?」

 あまりにも突然なことに雅は動けなかった。

「雅!!」

 ソウルは剣を抜き、走り出すが間に合わない。

 魔物の爪が雅に襲い掛かる。

(ヤバイっ!)

 ソウルがそう思った、次の瞬間。

 リタが熊の魔物の懐に飛び込み、

「おらおらぁ!! 奥義、徒手空拳!!」

 リタが魔物にむかって強烈なパンチを繰り出した。

ドコォッ!! という音と共に魔物は、
はるかかなたへと飛んでいってしまった。

「おらおら! ザコはすっこんでな!」

 リタはさっきの穏やかな雰囲気とは真逆な態度で、大声で叫ぶ。

 まるで別人を見ているようだ。


 ソウルと雅は考えもしなかった現実にポカーンと口を開けて固まってしまった。


 ・・・ ・・・。


 しばらくの間、沈黙が続く。

 森に風が吹き、木々がざわざわと葉を揺らす音でリタはハッとして我にかえる。

 顔をリンゴのように真っ赤にして、

「ええ、えと、あ、後でお礼がしたいので、私のお店にぜひよってくださいねっ
!」

 そういって、ものすごい速さで街のほうへと走り去ってしまった。


 あまりにもの急展開。

 兄妹は状況を把握するまでに時間がかかった。

 そしてようやく兄の口が動く。

「なぁ、雅」

 少し間が空いて妹が答える。

「何、ソウル」


「オレたち、あの人助ける必要あったか・・・?」


「・・・、さぁ・・・?」

 兄の率直な疑問に妹が首を傾げる。


 ただ立ちすくむ二人を森の木漏れ日が照らす。

 少し離れた先に白いレンガ作りの大きな塀が見えた。

 商業と宗教の街 セルリア。

 兄妹の目的地はもう目の前まで近づいていた―。



5)

「うわぁぁぁ~!!」

 雅は目をキラキラさせながら周りをキョロキョロと見ている。

 宗教と商業の街 セルリアは多くの人で賑わっていた。

 この街は幻想世界最大の教会があり、レフティア大陸の中央部にあるため、
信仰者や旅人の通り道となる。

 その人々を狙って商業人も集まるわけだ。

 白のレンガ造りの道や建物が多く、
空から降り注ぐ太陽の陽射しが街をいっそうと輝かしていた。


 人混みの前に立っていた二人。

 とりあえずリタの果物屋を捜すことにしたが、
どこからか喧嘩のような会話が聞こえてくる。


「だーかーら! オレは盗んでねぇって!」

「嘘をつくな! 人間の小僧が! お前以外の誰だと言うのだ!」

 二人から見て右手のほうだった。

 犬の亜人の店主と赤毛で長髪の少年が言い争っていた。

 少年の右には落ち着いた雰囲気で、背の高い女性が立っている。

 亜人とは動物の特徴を持った人型の種族で、その姿は様々である。

 店主はブルドッグの顔で、尻尾もあるようだ。

「ご、ごめんなさい! ほら、あなたも謝りなさい!」

女性が深く頭を下げ、左手を少年の頭にかけて無理矢理でも謝らそうとしていた。

「痛ててっ! なんでオレが謝らなきゃなんねぇんだよ! オレは何もしてねぇつーの!」

 赤毛の少年は女性の手をどけようとじたばたしている。

 それを見た店主は飽きれた顔で

「・・・ったく、これ以上厄介事を起こしたらギルドを呼ぶからな。」

 と、言った。


 『ギルド』という店主がなにげなく言ったその言葉。

 ソウルは気になって仕方なかった。

「ギルド・・・、ね」

 ソウルは何か思いふけるようにそっとつぶやく。

「・・・ソウル?」

 雅がヌッと心配そうに顔を覗き込んできたので、ソウルはハッとした。

「あ、ああ・・・。 なんでもない。 どうした?」

 ソウルがいつの間にか流れ出していた額の汗を汗を、服の袖で拭って雅に尋ねかえす。

 それを聞いた雅は、一つの建物を指差した。

 ソウルは雅の指の先を見る。

 人混みで少し見づらかったが確かにその建物の屋根にこう書かれたいた。


 『すごく美味い! 超激辛マーボーカレーサンド!!』


 ソウルの頭の中で何かが切れるような音がした。

 糸が切れるような。

 ソウルは雅の頭をガッとわしづかみする。

 ひゃっ!? と、思わず雅は叫んで恐る恐るソウルの顔を覗き込む。

 そこにあったのは、兄の満面の笑みだった。

 しかし妹の頭に乗せられた兄の手はギリギリと力が加えられていく。


「なぁ、雅? お前、リンゴ食ったよな? なぁ!?」

「痛い痛い痛ぁーい! ゴメン、ゴメンなさい! ギブギブ!」

 人混みの前で兄妹は漫才を始める。

 周りは、なんだなんだ? とジロジロ見てくる者もいれば、
見て見ぬフリをするものも。

 雅がついに目に涙を浮かべた時、後ろからさっき森で聞いた声がした。

「あらあら。 そんなところに立っていたら、人の波に飲み込まれてしまいますよ?」

 兄妹は同時に振り向く。

 リボンの少女。

 大地の巫女、リタは口に手をあててクスクスと笑っていた。

 兄妹はハッとして、顔が真っ赤に染まる。

 それを見てさらにリタが ふふふ、と笑う。

 リタは、ごめんなさい、と言って続ける。

「ようこそ。 宗教と商業の街 セルリアへ!」



6)

 リタの家は一階が果物屋になっていて、二階が住居スペースとなっている。

 あまり広くはないが風通しや日当たりも良く、台所も風呂もあって、
わりと快適にできる構造になっていた。

 兄妹はリビングでテーブルを囲んで、
リタお手製のアップルティを飲んでくつろいでいるところだ。

 ソウルは帽子を椅子の横にかけ、ゆったりと椅子に座っている。

 帽子を脱いでいるが、長い前髪で相変わらず右目は見えない。

 ソウルはカップを手に取り、少しアップルティを口に含んだ。

 ほのかにリンゴの香りと甘酸っぱさがあるこの紅茶から、
ソウルはリタのリンゴに対するこだわりを感じた。

 市販の物では絶対出せない気品のある味がする。

(さすが、果物屋をやってるだけあるな。 なかなか美味しい)

 紅茶の味をゆっくりと味わうソウル。

 だが、隣を見ると・・・、

「ゴクゴクっ! プハァ~! おかわり!」

 暴食妹、いや今は暴飲娘が目をキラキラさせて、
せっかくの美味な紅茶を飲み荒らしていた。

 どんどん飲んでくださいね♪ と、リタはニコニコしながら言うが
さすがに兄は悪い気がして仕方なかった。


 リタがふと思ったことを口にした。

「ところでお二人の旅の目的は何なのですか?」

 ソウルはコトッとカップを置いて、

「ああ・・・、ちょっと人捜しをな」

「人捜しですか?」

 リタが首を傾げる。

 その横でけぷっと、小さなゲップをして雅がソウルに続いて、

「わたしにはね、三人のお姉ちゃんがいてね。
わたしが小さい時に行方不明になっちゃって・・・」

 と、少しうつむいて言う。


 しかしこの言葉にはひっかかるものをリタは感じた。

「あれ・・・、『には』? お二人は兄妹だったのでは・・・?」

「ああ・・・、オレと雅は血は繋がってねぇんだよ。 義理の兄妹なんだよ」

 二人にとってよくある質問らしい。

 ソウルはフッと鼻を鳴らして、面倒臭そうな顔で答えた。

 リタは少し悪かったでしょうか という顔をしながら会話を続ける。

「あのギルドには依頼を出さないのですか?」

「それはできない!」

 兄妹は同時に大声で答えた。

 リタはビクッとして、口に運んでいたカップを落としそうになった。

「あ・・・ゴメン。 でも、ギルドには頼めないの・・・。 ギルドには・・・」

 雅の頭がさらに下を向く。

 よほどの事情があるらしい。


 さっきからたびたび話に出てくる『ギルド』というのは、
帝国の市民権を捨て、ユニオンを拠点に活動する自治組織のことだ。

 聞こえは悪いかもしれないが、帝国の治安組織である帝国騎士団は、
あくまでも帝国の監視下にあるため皇帝の許可がないと行動を起こせない。

 そのため、民間の小さい声は届かないことが多い。

 ギルドは帝国のように縛られるものはないため、
こういった騎士団の手が行き届かないところへ手を伸ばすことができる。

 しかし自治組織なために、世界や地方を動かすほどの行動はできない。

 帝国とギルド。

 この二大勢力が揃ってこそ、ウィティアの平和を支えているのだ。


 少し会話が途切れた。

 コツコツと時計の針が回る音が重い空気に響く。

(あれ・・・、時計・・・?)

 リタはふと壁にかけてある時計を見る。

 時計の針は三時を指していた。

「おかしいですね・・・」

 リタがつぶやいた。

 それに気づいた雅が話し掛ける。

「どしたの?」

「この時間になると教会の鐘の音が聞こえるはずなんです。
教会のシスターさんが広場で神へ祈りを捧げ、
民に神の恵み『魔術』を教える大切な時間なんです」

 リタはすらすらと疑問と説明を述べた。

「神様ねぇ・・・。 本当に魔術が神の恵みなら、こりゃ大事だな・・・」

 ソウルがサラっと言う。
 神とか、そういう類いのものには興味がないらしい。

「ん・・・? 何か聞こえない・・・?」

 雅がふと、何かに気がついた。

 ソウルとリタも耳を澄ますと、なにやら外から多くの人が、がやがやと騒ぐような声が・・・。

「何でしょうか・・・?」

 リタが不安げに言った。

 それに雅が立ち上がり、今にも飛び出しそうな勢いで、

「もしかしたら、今回の件に関係あるのかもしれないよ!?」

 そう言って玄関に走りだしたので、ソウルはすかさず雅の後ろ髪をつかむ。

 雅は小さく、ふにゃ! と、声を出しで足を止めた。

「何するんだよ!」

 雅は口を膨らまし、腕をバタバタしながら兄に叫んだ。

 ソウルは、ハァ・・・、とため息をついてから、雅の髪を放し、面倒くさそうに言う。

「あのなぁ・・・。 一人でどこ行く気だよ? お前一人で何かできるのか?」

「えと・・・」

「やっぱり、何も考えてなかったのな・・・」

 兄の言葉に図星だった雅は苦笑い。

 それを見たソウルはまた面倒くさそうに、

「わかったよ・・・。 一緒に行ってやるから・・・」

 そう言って椅子から立ち上がり、帽子を深く被る。

 リタも 待ってください! と言いながら、慌てて立った。

 そして、

 「とりあえず、広場に行きましょう。 きっと何かあったんですよ」

 リタはそう言うと、三人は外へと駆けていく。

 商業と宗教の街は不穏な空気が漂っていた―。


7)

 街の広場は教会の正面にある。

 広い広場の中心には、人間が一人乗れるほどの演説用の台が置いてあった。

 その周りには人だかりができていたが、台には誰も乗っていない。

 教会のほうにも、様子がおかしいことに気づいた者が大きな波をつくっていた。

 ソウルと雅、リタの三人は広場の手前で立ちすくんでいた。

「うわっ。 こりゃ、すげぇな・・・」

「これじゃ見えないですね・・・」

 ソウルとリタは、はぁ・・・、と深いため息をつく。

 そんな落ち込む兄の袖を雅がギュッと引っ張った。

「ソウル、肩車」

 それがあったか、とソウルが、ポンッ、と合いの手を打って、
なんのためらいもなく妹を肩に乗せる。

 そういうところが「兄妹らしい」とリタは思った。

「よし! 雅、何か見えるか?」

「んー、教会のほうにまで人が集まってるだけだね。 中は扉が閉まっててわからないよ」

 雅がそう言ったのを聴くとと、リタは少し暗い顔をしてつぶやく。

「インデックスさんはどうしたんでしょうか・・・」

「いんでっくす? なんかの目次か何かか?」

 リタのつぶやきに気づいたソウルは、彼女に問いかける。

 それにリタは、ああ・・・、とつぶやいてから、

「ここの教会のトップシスターさんは最年少の女の子なんです。
『禁書目録(インデックス)』と名乗っています」

 と、すらすらソウルの質問に答えた。

 それを聴いたソウルは少しうさん臭そうな顔で感想を述べる。

「禁書の目録(インデックス)ねぇ・・・。 思いっきり偽名じゃねぇか・・・」

 ソウルがそう言った瞬間だった。


 ドゴォォォォンッ・・・!!


 教会の中から何かが爆発した音し、正面の大きな扉の隙間からモクモクと
黒い煙が溢れ出したのだ。

 黒い煙は広場をみるみる飲み込んでゆく。

「な、何でしょうか・・・!?」

 リタが不安な声で言う。

 周りの人々は悲鳴をあげながら、教会から一斉に離れていく。

 それは人の大波となり、三人を押し流そうとする。

「くっ・・・! なんだってんだよ! とりあえず、雅降りろ!」

 ソウルは雅を下ろし、揺らめく人波に逆らうように走り出した。

 雅をすかさず兄の背中を追う。

「ちょっと二人共、どこ行くんですか!?」

 リタも慌てて走り出した。

 荒れる大波の中は、少しでも気を抜けば押し流されそうになる。

 三人はなんとか掻き分けて、教会のトビラの前までたどり着く。

 すでに煙はもう引いていた。

 見上げるほどの大きな白い扉には、4本足の魔物のような生き物が描かれている。

 多分、これが神様というものだろう。

「ふ、二人共・・・、は、早すぎます・・・」

 リタはその場でしゃがみこみ、ハァハァ・・・、と荒い息を吐く。

 雅は、大丈夫・・・? と、リタを心配しながら言った。

「さっきの爆発と煙は多分、炎を魔術によるものだよ」

「ど、どうしてわかるんです・・・?」

 リタは少し呼吸を整えて問う。

 それにソウルがさらっと、

「雅は、マナの流れを感じれんだよ。 多分、中で何かあったんだろうな・・・」

 そう答えて、さらに扉を見上げて続ける。

「さて、コレをどう開けるもんかね・・・」

 白く光る扉は押してもビクともしなかった。

 中でしっかり鍵がかけられているようで、さらに頑丈なため強行でも無理そうだ。

 普通ならば―。

「二人共、どいてください・・・」

 リタは立ち上がり、扉の前で拳を構えた。

 その表情はさっきまでの穏やかな顔とは違う。

 眼は鋭く、身体からは何やらオーラのようなものが出ているように兄妹は感じた・・・。

「ま、まさか・・・」

 兄妹が慌ててリタの後ろに下がる。

 そして―。

「チェストォォォォ!!」


 ドゴォォォォ!!


 リタは男性のような勇ましい掛け声とともに拳を振り、
巨大な扉をバラバラに砕いたのだ。

 フッ・・・! と、リタは拳についた手を息で吹き払い、後ろを向く。

「行きましょう!」

 しかし、兄妹は唖然としてその場で、ははは・・・、と笑うしかなかった。

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