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Soul・Link 第一話 完成版。 下

8) 教会を正面から中に入るとそこは、だだっ広い礼拝堂だ。

 いくつもの木製の長椅子がならんでいて、白い壁と床が、
天窓からの光でより白く輝いている。

 礼拝堂の奥の中央には白い神の石像があり、部屋の両端には上へ続く階段がある。

 その石像の前に、黒服の人が二人見えた。
 
 片方は修道女。

 片方はフードを被っていて顔は見えないが、男のようだ。

 両者共に、先に青い水晶がついた木の杖を構えて、修道女は身体から紅い血がにじみ出ていた。

 黒フードの男は不気味に修道女に話しかける。

「貴様、聖地は何処にある・・・?」

「知りません! それよりもトップシスターを何処につれていったのですか!」

 修道女は男の問いに首を横に振り、叫び返した。

 男はそれを聴いて、フッ・・・、と鼻を鳴らし、

「嘘をつかないほうがいいぞ・・・。 あの女がどうなっても知らないぞ・・・?」

 そう言って、杖を修道女に向ける。

 フードの男の足元に赤い魔法陣が描かれ、そこから赤い光が放たれた。

 そして、男は不気味につぶやく。

「黒き炎よ・・・。 クロノフレイム!」

 杖から黒い炎の玉が出現し、修道女を目掛けて飛ぶ。


 ズドォォォン!!


 炎は爆発を起こし、その衝撃で周りのあらゆる物を吹き飛ばした。

 礼拝堂を視界をさえぎるほどのホコリの霧が包む。

 修道女も吹き飛ばされる・・・はずだった。

「何・・・?」

 ホコリの霧が晴れると、そこには一人の赤帽子の少年が修道女の前で二本の剣を構えていた。

 左手に赤い剣。

 右には黒い剣。

「ったく・・・。 いきなり戦闘って、ついてないっての!」

 少年がそう言うと、後ろを向いて修道女に話しかける。
 
「あんた、大丈夫か!?」

「ええ・・・。 貴方は・・・?」

「通りすがりの旅人だよっ!」

 修道女が問い返すと、少年はそう答えた。

 修道女が扉を方を向くと、扉はいつの間にか粉々に砕かれていて、そこからさらに二人の少女が駆けてくる。

 緑の髪の少女は赤帽子の少年の下に。

 ブラウンの髪の少女は修道女のそばに駆け寄る。

 緑の髪の少女は少年に声をかける。

「ソウル!」

「雅! 一気にたたみかけるぞ!」

 少年が緑髪の少女に合図すると、少女は先に竜のような装飾がついた杖を取り出す。

 緑髪の少女は杖を構え、魔術の詠唱をつぶやくと、足元に緑の魔法陣が描かれていく。

「風よ、切り刻め・・・!」

 赤帽子の少年は、緑髪の少女がつぶやき終わると同時に左の剣を振るった。

 そして二人は同時に叫ぶ。

「リンク奥義! 絶風刃!!」

 少年の剣から風の刃が発生し、礼拝堂の白い床を切り裂きながら、ものすごい速さで黒フードの男に襲い掛かる。

 「う、うわぁぁぁぁ!?」

 男はとっさに右に転がり、風の刃をかわした。


 ズドォォォォォ!!


 風の刃は神の石像に直撃し、像は真っ二つに崩れ落ちる。

 「チッ! 外したか!」

 少年は悔しそうに舌打ちし、男を見つめる。

 男はふらふらしながら立ち上がり、階段へと走りだした。

「さ、サバタ様に報告だっ・・・!」

「あっ、待て!」

 慌てて雅も男を追って階段のほうに向かうが、少年がすばやく緑髪の少女の手をつかむ。

「ちょっと、早く追わないと!」

「先にやることあるだろが!」

 少年はあせる少女を抑え、後ろを指差す。

 そこにはブラウンの髪の少女が傷ついた修道女を手当てしていた。

「まずはこの人の安全の確保が先だ!」

 少年はそう言うと修道女の元に走り出す。

 少女も首を縦に振り、少年の後を追った。



9)

 ソウル、雅、リタの三人は、教会の中で一人の修道女に出会った。

 彼女は黒のフードを被った男に襲われ、身体中傷だらけで黒の修道服は紅い血で染まっている。

 三人は修道女を寝かせ、手当てをしているところだ。

 ソウルは修道女の腹部に手を当て、魔術の詠唱を唱える。

「聖なる活力、来なっ! ファーストエイド!」

 修道女はまばゆい光に包まれた。

 すると、彼女の傷口が少しふさがったのだ。

「驚きました。 治癒術が使えるなんて・・・」

 リタが眼を丸くしてソウルに言う。

「まぁな。 簡単なものしかないけどな」

 ソウルは女性の顔色をうかがいながら答えた。

 女性は少しずつだが穏やかな顔になっていくのがわかる。

「あ、ありがとうございます・・・。 助かりました・・・」

 修道女はそう言うとゆっくりと起き上がった。

「痛っ・・・!」

「ああ、ダメだよ! まだ起き上がっちゃ!」

 雅は苦痛で顔を歪む修道女を落ち着かせ、再びゆっくりと床に寝かす。

「この術はあくまでも応急処置の術だからな。 無理すんな」

 ソウルはさらっと処置について説明し、さらに続ける。

「何があったんだ?」

 修道女は、ああ・・・、とつぶやいてからその質問に答えた。

「突然、黒服を着た人たちが侵入してきたんです・・・。 
『聖地』がなんとか言ってました・・・。 
他の修道士たちは無事に非難したんですけど・・・」

「『聖地』?」

 ソウルは疑問を口にする。

 その疑問をリタが解く。

「聖地とは、このウィティアに八つあると言われる聖なる場所のことです。
そこには万物の根源『マナ』で満たされていると言われています」

 あくまでも伝説ですけど・・・、とリタは付け足す。

 そして今度は、修道女に自らの疑問を尋ねた。
 
「そういえば、トップシスターはどうしたんですか?」

 修道女は少し暗い顔をして答える。

「トップシスターは、その人たちに抵抗したんです・・・。 
そしたら、捕らえられてしまって・・・」

「それでアンタは一人で助けに来たんだな?」

 ソウルが修道女の言葉を先読みして言うと、彼女は申し訳なさそうに、
はい・・・、と言った。

 修道女もリタも、トップシスターのことを心配している。

 たとえ、危険とわかっていても。

 たとえ、自らが傷つく結果になっても。

 それほどこの教会の、いやこの街にとって大切な存在なのだ。

 その少女は。

 ソウルは少し微笑み、そして修道女に言った。

「オレたちに任せろ。 トップシスターは必ず助ける。 絶対にな」
 
 だろ、雅? と、ソウルは後ろにいる雅に言い、雅はうなずく。

「ありがとう・・・」

 修道女は安心したようだ。

 そのまま深い眠りについた。

 ずっと緊張し、疲れがたまっていたようだ。

 さてと、とソウルは立ち上がって雅に言う。

「んじゃ、雅。 アイツらぶっ飛ばしにいきますか!」

 うん! と、明るく返事をして雅も立ち上がる。

「さっきの男が言うに、『サバタ』って人がボスみたいだね」

 雅はさっき、修道女を襲っていた男の言葉を思い出す。

「!?」

 リタは雅がその名前を言った瞬間、とても敏感に反応した。

「私も行きます! 二人だけじゃ危険です!」

 リタは慌てて立ち上がり、眼を丸くして言い、兄妹についていこうとする。

 しかし―。

「ダメだよっ!」

 雅がそれを止めようとした。

 雅は力強い眼差しでリタを見つめる。

 その眼はいつものかわいらしいものと違う。

 そのまっすぐな眼はリタの足を止めた。

 雅は力強く言う。

「今、誰かがこの人を安全な場所に連れて行かなきゃ、この人は死んじゃう。
この街に住んでるリタなら治療できる場所とかそういう場所、知ってるよね?!」

 でも・・・と、リタは後ずさる。

「大丈夫だ」

 ソウルが雅に続けて戸惑うリタに言った。

「大丈夫だ。 オレたち、こういうのは慣れてっから。 リタ、その人を頼むぜ?」

 ソウルは少し微笑んだ。

 彼の眼もまた、まっすぐな力強い眼をしていた。

 それを見たリタは、どこか懐かしい顔を思いだす。

 今はどこにいるかわからない、一人の少年を。

「・・・わかりました。 私、助けます! この人を。 二人も気をつけて」

 リタの眼差しも強くなった。

 それを見た兄妹は、深くうなずいた。

 兄妹とリボンの少女は背中を向け合い、走り出す。

 それぞれの目的に―。



10)

 ここは教会の最上階。

 トップシスターの私室だ。

 本当に小さな部屋で、事務机と本棚が一つずつ置いてあり、
小さな窓が一つあるだけのシンプルな部屋だ。

 その部屋に純白の修道服を着た少女と、黒衣の少年が。

 黒衣の少年は紫の髪に淡い紫のマフラーをしていて、
血のように赤い眼で縄で縛られて床に転がる純白の少女を見下ろしていた。

 その眼は血のように紅く、光が入らない。

 身動きの取れない少女は、少年を見つめながらじたばたと転がりまわる。

 純白の少女は少年に話かける。

「あなたたちの目的は何? 聖地を捜してどうする気なの?」

「お前には関係ないことだ」

 少年は、フン、と鼻を鳴らして無愛想に答えた。

 その態度を見た少女は口を膨らまして、さらに暴れまわる。

(ん・・・?)

 少年は白いシスターが暴れまわるたびに縄が少しずつ緩んでいくことに気がついた。

(さっきしっかりと縛ったはずだが・・・)

 少年は少し眉間にしわをよせて、口に手を当てる。

「なんで、って顔してるね?」

 少女が少年の様子に気づき、話かけた。

 少年は少し目を丸くする。

「・・・なんだ、縄解きの趣味でもあるのか?」

 あくまでも冷静に言う。

 それに対して少女はさらに機嫌を悪くする。

「そんな趣味はない! ・・・でも、知識はあるよ。 この十万三千冊の魔術書の中にね」

「十万三千冊? まさかそれを全て記憶してるとでも言うのか?」

 少年は白いシスターのありえない発言に少しバカにした声で答える。

 しかし、白いシスターはうなずく。

 その顔は自信に溢れていた。

「フフフフ・・・、ハッハッハ!! まさか、この教会のトップシスターが
ただの夢見るガキとはっ!!」

 それを見た少年は高らかに笑い出した。

 小さな個室に彼の声が響く。

 少ししてから少年は気持ちを落ち着け、純白のシスターの縄を、ギュッと縛り直す。

 少女は、ホントだもん! と、さらにバタバタと暴れまわす。

 少年が縛り直し終わった。

 その時―。

 バンッ!!

 小部屋の扉が勢いよく開いた。

 扉の向こうには黒いフードを被った男が立っていた。

 男は早口で少年に言う。

「サバタ様。 光の聖地らしき場所をこの教会の地下で発見したと、調査班からの報告です!」

 それを聴いた黒衣の少年は、ニヤリと不気味に微笑み、

「よくやった。 『例の物』の回収を始めろ。 オレも行く」

 そう言って扉のほうへと向かう。

(『例の物』・・・?)

 少女は少年が口にした言葉に疑問を抱く。

 確かめたいが今は身動きが取れない。

 縄を解くためにじたばたするが、黒フードの男に抑えるられてしまった。

「それと、正体不明の少年少女3名が進入したと、見張りの者が。 どうなさいますか?」

 黒フードの男が報告を付け足すが、少年は、ほっておけ、とあっさり聞き流す。

「サバタ様、この娘はどうなさいますか!?」

 男は少年に尋ねる。

 少年はフンと、鼻を鳴らして言った。

「適当に掃除用具入れにでもぶち込んでろ」

「え!?」

 黒衣の少年の思わぬ発言に純白の少女は驚いた。

 そのまま白いシスターは男にひょいとつままれて、
部屋の前の廊下に置いてあった掃除用具入れのロッカーに閉じ込められてしまった。



11)

 兄妹は教会の白く輝く階段を駆け上がっていた。

 このセルリアの教会は5階建てになっていて、階段が無駄に長い。

 そのため、上るにも時間がかかるが、黒服の集団が戦闘体制で待ち伏せているのでさらに時間がかかる。

 やっとの思いで兄妹は5階にたどり着いたが、もうヘトヘトだった。

「なんだってんだよ、アイツら・・・」

「もう、ダメかも・・・」

 彼らの前には短い廊下が続いていた。

 ここの廊下も床、壁共に白い。

 廊下の先に小さな扉がある。

 おそらくあそこがトップシスターの私室だと、ソウルは思った・・・が、
その前に扉の手前に置いてある掃除用具入れのロッカーから、
バンバン、ガタガタ、と揺れていることが気になった。

 兄妹は恐る恐るロッカーに近づく。

「・・・なぁ、雅。 コレ開けたら、魔物でしたーってオチじゃねぇよな?」

「ロッカーから出てくる魔物なんて聞いたことないけど・・・」

 二人は怪しく揺れるロッカーをじーっと見つめた後、話し合いの結果で兄が開けることにした。

 ソウルはそーっと、ロッカーの扉に手を伸ばす。

 取っ手に手をかけ、引こうとした。

 その時、バンッ! と勢いよくロッカーの扉が開き、
中から白い何かがドサッと、ソウルに飛び掛かってきた。

 そのままソウルは押し倒され、仰向けでバンッと床に叩きつけられる。

 うごっ!?  と、ソウルは思わず声をあげてしまう。

「ぬぅあ~・・・、 なんだってんだよ・・・!?」

 ソウルはお腹の上に伸し掛かる何かに目を落とす。

 そこには、白い修道服を着た銀髪の少女が、顔をソウルのお腹に押し付けて倒れていた。

「んっ・・・? アレ、痛くない?」

 少女が顔をあげる。

 彼女の碧色の目が赤帽子の少年の紅眼と合う。

 ・・・。

 しばらくの沈黙の後、二人は顔をみるみる赤く染めて、ガバッ! と、
勢いよく立ち上がった。

 それを見た雅は、ニヤニヤとした表情で二人を見つめる。

「あ、あなたたちは!?」

 純白のシスターが慌てた口調で兄妹に問う。

「わたしは雅。 悠久の風の雅だよ。」

 先に雅が答え、ソウルは戸惑う気持ちを落ち着けて続ける。

「オレはソウル。 ソウ・エンフォンだ。 あんたは・・・?」

 シスターの少女も荒れた呼吸を調えた。

 少し間を空けてから言う。

「私はインデックス。 Index-Librorum-Prohibitorum、禁書目録だよ」

 禁書目録、インデックス。

 リタが言っていた、トップシスターの少女の名だ。

 (やっぱ、うさん臭いよな・・・)

 ソウルが心の中でつぶやく。

 ツッコミたかったが、面倒臭そうなので止めた。

 しかも、

「魔法名ならDedicatus545だね」

 なんて意味不明な補足を付け足すものだから、もはや何も言えない。

 とりあえず兄妹は自分たちの事情を説明し、インデックスがなぜロッカーの中に居たのか、
黒服の集団について、今の状況などについてを聞くことにした。

 それに対してインデックスが丁寧に説明していく。

 サバタと呼ばれる少年に縄で縛られ、さらに掃除用具ロッカーに閉じ込められたこと。

 今、サバタたちは教会の地下にある聖地にいること。

 そして、縄を自分で解いてロッカーから飛び出した時にソウルと雅に出会ったことまで。

 それと、自身は聖地の場所を知っていたことも話した。

「・・・というわけなの」

「なるほどね・・・」

 兄妹が同時につぶやく。

「あの人たち、何かを探しているみたいだった。 早くしないと、何をされるかわからないよ!」

 インデックスは焦っているようだった。

 今にも走り出しそうな雰囲気だ。

 それを見たソウルは少し冷たい口調で言う。

「落ち着け。 あんた一人で何ができる?」

「うっ・・・」

 インデックスの動きが止まる。

「止めてもあなたは行くよね? だったら、わたしたちと一緒に行こ?」

 雅がインデックスをジッと見つめて言う。

 純白のシスターは、少し悩んでから首を縦に振った。

「わかった・・・、行こう。 一緒に」

 それを聴いたソウルは、

「んじゃ、さっさと終わらそうぜ」

 そう言って早々と歩きだす。

 雅とインデックスも、うん と言ってソウルの後に続く。

 目指すは教会の地下。

 しかし、この後の出来事が兄妹の運命を変えてしまうとは、この時、誰も知らなかった―。



12)

 教会の隠された階段。

 それを駆け降りると、例の地下はある。

 地下には一つの真っ暗な小部屋があるだけだ。

 壁に取り付けられた無数のロウソクと、
唯一の扉の隙間からの光が闇に包まれているこの部屋をわずかに照らしていた。

 その部屋の最も奥には祭壇らしきものがあり、
黒衣の少年が複数の黒いフードの部下を引き連れて、その前に立っている。

 祭壇の上には紅い箱のような物が置かれていた。

 箱の真ん中には蒼い水晶がはめ込まれている。

「サバタ様。 ここが光の聖地かと」

 一人の部下が言う。

 サバタと呼ばれる少年は、フッ、と笑い、その部下に聞く。

「『例の物』はどうなっている?」

「回収準備は整っています!」

 部下は深々と頭を下げて答えた。

 さらに別の部下が言う。

「サバタ様。 上で見張りが次々と兄妹を名乗る二人組に倒されているという報告が・・・!」

 それに対してサバタは、

「構わん。 回収を始めろ!」

 サバタの掛け声と共に部下たちが一斉に何かの詠唱を呟き始めた。

 不気味な声が部屋中に響きわたる。

 すると、その声に答えるかのように祭壇の上の紅い箱のようなものが、
物凄い速さで震え始めた。


 ブワッ!!


 突然、部屋中に光が溢れ出す。

 その光の正体。

「物凄い量のマナだ・・・!!」

 サバタが不気味な笑みを浮かべながら言った。

 溢れ出したマナは祭壇の上、あの紅い箱に集まっていく。

 紅い箱はゴウゴウと音をたて、マナをどんどん吸い込む。

「サバタ様! 順調です。 このままいけば、十分ほどで完了するかと」

 部下の一人が詠唱を一時止め、途中経過を上司に報告する。

 サバタは眉間なしわを寄せ、真剣な顔になった。

 さっきの笑みが消える。

「いや、もう少しかかるだろう・・・」

 黒衣の少年が後ろの扉を振り向いたその時、


 バンッ!!


 その扉が勢いよく開いたのだ。

 部屋に上からの光が差し込む。

 そこにいたのは、赤帽子の少年と緑の髪の少女。
 そして、純白のシスターだった。

 緑の髪の少女が言う。

「そこの人たち! 誰だか、何をしているか知らないけど・・・」

 そして一旦溜めて、

「みーーんな、わたしがやっつけるんだからぁ!!」

 部屋中に彼女の声が響きわたる。


 ・・・ ・・・。


 黒の一団は皆沈黙し、緑の髪の少女を白い眼で見つめた。

 それを見た赤帽子の少年が言う。

「おい、雅。 バカにされてんぞ」

「う、うるさいっ!」

 少女の顔はみるみる赤くなっていく。

「貴様ら、何をしにここに来た?」

 サバタはゆっくりと扉のほうに近きながら問いた。

 それを聴いた純白のシスターが前に出て問い返す。

「貴方たちこそ何? この神聖な場所で何をしているの?」

「お前は・・・たしか禁書目録(インデックス)だったな・・・。」

 サバタが紅い眼で純白のシスターを睨む。

「お前が本当に十万三千冊の魔術書を記憶しているなら、
オレたちが何をしているかわかるだろう?」

 挑発にも聞こえるサバタの言葉。

 インデックスは周りを見渡した。

 溢れ出すマナ。

 集団で詠唱を唱える人々。

 祭壇の上の紅い箱。

「これは・・・、マナを集める魔術・・・?」

 インデックスがそう言うと、サバタは、フッ、と笑う。

「その通り。 オレたちはマナを集めている」

「何のために?」

 赤帽子の少年が聞いた。

「貴様らは?」

 サバタは残りの二人に眼を向け、少年の言葉を無視して問い掛ける。

「わたしは雅。 悠久の風の雅」

「オレはソウ・エンフォン。コイツの兄だ」

 兄妹が答えた。

 それを聴いたサバタは気づく。

「そうか・・・、貴様らが報告にあった兄妹を名乗る二人組か」

 サバタはニヤリと笑い、術を唱える部下たちに

「コイツらはオレがやる。 お前らは回収を続けろ!」

 そう言うと、腰に付けた黒い銃を引き抜き、三人に突き付ける。

 それを見た兄妹も武器を構えた。

 インデックスは戦う力がないようなので、陰に隠れる。

 サバタが言う。
 
「貴様らの実力・・・、試させてもらう。」

 そして・・・、

「行くぞっ!!」――。

12)

「行くぞっ!!」

 サバタの掛け声と共にソウルは走り出した。

「喰らえ! 竜迅剣!!」

 ソウルは瞬時にサバタの懐に飛び込み、両手に構えた剣を振る。

 ガシッ!!

 それをサバタはとっさに銃で受け止めた。

 ギリギリッと武器と武器がぶつかる音が鳴る。

 両者は睨み合う。

「お前らは何なんだ? 何でここを襲う?」

 ソウルはサバタに問い掛けるが、サバタはフッと鼻を鳴らして、

「さてな?」

 と、適当にごまかしてソウルの右手の剣に目を落とす。

「暗黒剣・・・か」

 ソウルの右手に持つ剣。

 暗黒剣・月影。

 それは黒く、無数の眼のような模様があった。

 暗黒剣とは闇属性のマナが固体化された物、
一般的に暗黒物質(ダークマター)と呼ばれる物質で作られた魔剣だ。

 その刃に大きな闇の力を秘め、生きているかのように触れるものから体内のマナを喰らう。

 そのため普通の人では大きな負担がかかり、扱うことは極めて難しい。

 ただ例外がいるのだ。

「お前、闇の一族の血を引いているのか・・・!」

 サバタがニヤリと笑う。

闇の一族はその身に大量の闇のマナをもつ種族で、
不気味でかつ強すぎる力は周りから『汚れた存在』として差別されているのだ。

「何だよ・・・、お前には関係ないだろっ!」

 ソウルはそう言って剣を振り払い、後ろに下がってサバタと距離をとる。

 同じくサバタも後ろに下がる。

「少しはやるようだな・・・!」

 サバタは戦いを楽しんでいるようだった。

 ニヤリと不気味に微笑んでいる。

「そりゃどうも。 でも、前ばっか見てるとこけるぜ?」

 ソウルもまた、少し鼻を膨らませて言う。

「何?」

 サバタが眉をひそめる。

 その時、

 ビュッ!!

 サバタの横から、もの凄い速さで風の刃が襲い掛かる。

「!?」

 サバタはとっさに後ろに下がり、かろうじてそれを回避する。

 サバタはソウルの後ろに立つ雅を見た。

 彼女は眼をつぶり、精神を集中させて魔術の詠唱を唱えている。

「風よ、切り刻め・・・!」

 雅の足元から碧色のマナが浮かび、円陣が描かれてゆく。

「当たれ! ウィンドカッター!!」

 周りの空気が収束し、第二の刃がサバタに飛ぶ。

「マジックガードっ!」

 サバタは蒼い光で身を包み込み、銃を振って刃を受け流した。

 それを見て、ソウルはチッと、舌打ちをする。

「めんどくせぇ、戦い方しやがって・・・」

 この戦いが始まって、サバタは一度も攻撃をしていない。

 手を抜いているような態度。

 ソウルはそれが気に入らず、イライラする。

 突然、一人の黒の一団の男がサバタに近づいてきた。

「サバタ様。 そろそろ回収が完了します!」

 サバタは少し、うっとうしそうな顔をして、

「そうか・・・、わかった。 すぐに片付ける」

 そう言って、銃を床に向かって構える。

「何のまねだ?」

 ソウルはサバタに問う。

 サバタのいかにも、つまらないという顔で答えた。

「残念ながら時間切れだ。 悪いが、一気に決めさせてもらう」

 そう言い、フンッ、と鼻を鳴らした後、静かに口を動かす。

「来たれ、永遠の闇よ。 生あるものを飲み込み、死の世界へと誘え」

 サバタの足元から黒いマナが溢れ出し、彼の頭上で巨大な渦を作り出す。

 そして―。



「秘奥義、エターナルダークネス!!」

 サバタの叫びと共に、黒い渦がもの凄い勢いで周りの物を吸い込み始めた。

 まるで、ブラックホールのように。

「あ、アレはっ!?」

 急に陰に隠れていたインデックスが飛び出してくる。

「インデックス、危ないよっ!」

 雅が注意をするが、インデックスはそれを気にもせず、慌てた表情で言う。

「そうる、みやび、アレは危険すぎる! 早く逃げてっ!!」

 黒い渦はさらに勢いを増し、大きく膨らんでいくのがわかる。

「こりゃ確かに、逃走したほうが良さそうだな・・・」

 さすがのソウルも引くしかなかった。

 三人は扉のほうへと走り出す。

 彼らの背中を見たサバタは、

「逃げられると思うな!」

 そう言って黒い渦に手をかざし、叫ぶ。

「暗黒ぉぉぉぉく!!」


 ドゴオオオォォォ!!


 黒い渦は吸い込むことを止め、巨大な爆発を起こしたのだ。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 兄妹とシスターは吹き飛び、壁に叩きつけられ、そのまま床に転がり落ちる。

 術を唱え終わったサバタは銃をしまい、さらにつまらなさそうな顔をした。

「こんなものか・・・」

「く、クソっ・・・」

 ソウルは立ち上がろうとする。

 しかし力が入らず、ただはいつくばることしかできない。

 雅とインデックスも気絶してしまったようだ。

 ピクリとも動かない。

 圧倒的な実力差だった。

 サバタはソウルたちに背を向けて、部下のもとへ歩き出す。

「クソったれ! 待ちやがれ!」

 ソウルは床に伏せたまま、最後の気力でサバタに叫んだ。

 サバタが足を止める。

「そのしつこさを評価して特別に教えてやろう。 我らは『黒の一団』。 
世界を変える者だ」

 そう言って、ビュンッ、と一瞬で部下たちと共に消えてしまった。


「まち、やが、れ・・・」

 赤帽子の少年はその場に倒れ込む。

(畜生・・・)

 何もできなかった現実。

 込み上げてくる悔しみの感情は、彼を闇に飲み込んでいった―。



12)

 気がつけばベッドの上にいた。


 教会の地下で気絶していた兄妹は、そのままリタの家に運びこまれたのだ。

 あの女性と白い修道服の少女は、この町の病院のほうへ送られたらしい。

 命に別状はなく、軽い怪我で済んだそうだ。

 兄妹もそれほど大きな怪我もなく、今は椅子に腰をかけてリンゴの紅茶をすすっていた。

 雅がふと呟く。

「あの人たちは何を考えていたのかな・・・?」

 ソウルは眉間にしわをよせて、それに答える。

「さぁな・・・」

 黒の一団、サバタ、マナを集める術、そして『例の物』。

 教会で起きたでき事はあまりにも突然で、不穏なものだった。

 ソウルは少し考えてから、

「ま、確実に言えるのは、イイコトじゃないってことだよな・・・」

 そう言うと、紅茶を一口。

 その時、玄関のほうからドアが開く音がした。

 リタが帰ってきたようだ。

「身体はどうですか?」

 リタは右手に木網のバスケットを持っていた。

 中には紅いリンゴが二、三個入っている。

「おかげさまで元気になったよ」

 雅は微笑んで答えた。

 リタは、よかったです、と言って、バスケットを兄妹が囲むテーブルに置く。

 それを見た雅は目をキラキラと輝かして、今にも飛びつきそうだ。

 ソウルは雅の行動に苦笑いしつつ、リタに言う。

「いろいろと世話になったな」

 それにリタは首を横に振りながら、控えめに答える。

「いえいえ。 二人のおかげでトップシスターは無事でしたし」

 しかし、雅は少しうつむく。

「守れなかったのも、あるけどね・・・」

「雅・・・」

 ソウルも少し暗い表情で言った。

 兄妹は確かにこの街の支えである、あの少女は救うことは出来たのだ。

 しかし歴史ある教会は戦場と化し、多くの人に恐怖と混乱を及んでしまった。

 もっと、早く異変に気づいていれば・・・、と妹はつぶやく。


 沈黙が続いた。


 しばらくしてから、リタが口を開く。

「二人は悪くありませんよ」

「え・・・?」

 雅が顔を上げた。

 リタはそれを見て続ける。

「確かに教会が壊れて、たくさんの人が傷ついて・・・。 でも二人がいなきゃ、もっと多くの人が傷つきましたよ? 死者も出たかもしれませんよ?」

 そしてニッコリ笑って、

「いつも心に太陽を! 前を向いてください!」

 その笑顔は太陽のようだった。

 それを見てソウルは、フッ、と鼻を鳴らす。

「リタ、ありがとな?」

 兄はそう言って、紅茶の最後の一滴を飲み、そっとカップを受け皿に置いた-。



13)

 『例の物』を回収し終えたサバタは、暗い闇に包まれた部屋の中にいた。

「今帰った」

 サバタが言うと、部屋の奥から高めの男性の声が聞こえてくる。

「ご苦労様、サバタさん。 無事に回収できたようですね」

「まぁな」

 サバタは無愛想に答え、さらに続ける。

「今日、闇の一族にあった」

「闇の一族・・・ですか? それはまた珍しいですね。」

 声の持ち主は興味を示したようだ。

「名は『ソウ・エンフォン』と名乗っていた。」

 サバタが言うと、しばらく返事が返ってこなかった。

 どうやら考え込んでいるようだ。

 聞こえてきても、

「『エンフォン』・・・? まさか・・・!?」

 と、独り言だけだった。

「知っているのか?」

 サバタが答う。

 しかし声の持ち主は、いえ・・・、とごまかした。

 サバタは、チッ、と舌打ちしつつ、仕方なく報告を続ける。

「恐らく義妹だが、『悠久の風の雅』というガキも連れていた」

「それは・・・、何と言う偶然なんでしょうか・・・」

 声の持ち主はさらに驚いたようだった。

 またしばらく考え込む。

「そうか・・・、あの後に・・・」

 そして彼は手を軽く叩く。

 パンパンという音が部屋中に響きわたる。

 するとサバタの右にフッ と突然、一人の背が高い男性が現れた。

 その男性は黒のハットに黒のコートで、金髪の長髪をいくつもの三つ網みにしている。

「ハイドか・・・」

 サバタは横のハイドと呼ばれる男性を鋭い目で睨む。

 ハイドは、やれやれ・・・、と顔を横に振り、軽い口調で言った。

「おやおやサバタくん、『アレ』を回収したらしいですね? ケガはないですか?」

「貴様、ふざけてるのか!?」

 サバタは勢いよく腰の銃を引き抜き、ハイドに突き付ける。

「ンフフフ。 野蛮ですね・・・」

 ハイドも笑いながら、ステッキのような物を構える。

「おやめなさい!」

 闇の奥から声が飛んだ。

「私達の目的は争うことではないでしょう?」

 サバタは、チッ、と舌打ちし、武器を下ろす。

 ハイドも残念そうに顔を横に振った。

「ところでハイド。 貴方に頼みたいことがあります」

 闇に潜む者が言った。

「なんでしょうか?」

 ハイドが答える。

 そして闇に潜む者は、フフっ、と不気味な笑い声を上げた。

 そして言う。

「我等の同士を招待して差し上げなさい」


 とある闇の奥の奥。

 この世界の歯車を狂わすことが始まろうとしていた-。



14)

 次の日の朝。

 兄妹とリタは街の北門、ソウルたちが入った南門と逆の方角にいた。

「もう行くのですか?」

 リタが寂しそうな声で尋ねる。

 それに雅が答えた。

「うん。 お世話になったね」

「そうですか・・・」

 リタは少しうつむく。

 それを見てソウルはフッと笑い言った。

「大丈夫だよ。 また会えるさ」

 リタは顔を上げる。

 そして笑って言った。

「そうですね・・・、そうですよね!」

 兄妹も微笑む。

 優しい風が三人を包み始める。

「二人はこれからどこへ?」

 リタが尋ねる。

 それにソウルが、そうだな・・・、と少し考えてから答えた。

「こっからだと、さらに北。 ゼノギーアに行こうと思う。」

「歌と工業の町、ですね」

 リタがそう言うと二人はうなずいた。

 それを見てリタはさらに続けて、

「なら、『星読みのザジ』って人を尋ねてみてください。 何か旅の手掛かりになるかも」

「わかった。 ありがと!」

 雅がそう言うと、兄妹は歩き出した。

 リタは手を振る。

 どこまでも。

 彼らの姿が見えなくなるまで―。





あとがき。

文章構成オワター(え
文章の書き方がまだ固まらない・・・orz

これから上達していきます。 はい・・・。

2010/04/08 完成版、ブログ公開。

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なぜうえに小説に走ったのかは謎。